この日をふたりで ○
ブログ開設日は克克完全分裂記念日!ということにしています*12月は出会い、3月は完全分裂
2013.05.19微訂正




 明確に覚えていたわけじゃないんだけど、なんとなく、あれこの日って……となにか引っ掛かる日にちがあって、半身に聞いたら、さあなって天邪鬼な答えが返ってきたから、ああやっぱりって。
 だったらなにかしたくなるのが、人の常ってものだ。
 十二月は、今まで入ったこともないいいお店で、いいスーツと、いいダブルカフスのシャツと、いいカフリンクスを買った。
 思いきってオーダーメイドでもよかったんだけど、それにはまだ早い気がした。
 今だときっと、いくら自分の体に合わせて作られたものでも、着られてる感ありありだと思う。
 もう少し経験を積んで、いろんなことを身に付けて、今ならって思えるその時にしようって、ふたりで話した。
 三月は、ネクタイと靴を買うことにした。もちろんいいやつ。
 『いいやつ』の範囲なんてピンキリだから、オレの範囲のいいやつ。あいつの範囲にしてたら、恐ろしいことになるから。
 そして十二月も三月も、どちらも仕上げはいい食事。
 腕によりをかけて、オレの今の技術の粋を集めた最高の料理。
 けど十二月はちょっと気合いを入れすぎてテーブルに乗り切らなかったから、三月は反省を生かして品数を減らして、その分一品一品にすごく手間をかけた。
 魂を込めるほどのオレの様子に苦笑しながら、時にちょっかいを出しつつ手伝ってくれた<俺>。
 ふたりで作った豪華な食卓。おいしいって言い合って、笑い合う。
 デザートには、十二月の時はまだ作ったことがなかったから買ってきたけど、三月はせっかくだからと、クリームたっぷりの小さなショートケーキにチャレンジした。
 記念日にケーキなんて女子か、って鼻で笑ってたくせに、結局夢中でクリームを塗るお前。
 ろうそくなんか立ててみて、ふーって消してみて、甘酸っぱい雰囲気が恥ずかしい。
「いまさら照れるか」
「そうだけどさ。だってなにこれ甘酸っぱい」
「雰囲気が? ケーキが?」
「両方」
 笑って、ひと口食べる。
 甘さを控えたクリームに包まれた、甘酸っぱい柘榴リキュールのスポンジ。
 誰かに当てつけるように敢えて選んだ、紅い果実のお酒。
「十二月はなんともなかったけど、今回も大丈夫かな」
「やっぱり、敢えて飲んだり摂ったりした場合は何もないんじゃないか?」
「そうかな」
「たとえ何か起きたとしても、別に構わないだろ」
「……うん」
 だってお前とふたりなら。
 ふたりに降り懸かることなら。
 幸いでも、災いでも、なんだって受け止める。なんだって乗り越える。
 <俺>とオレ、ふたりなら。
「来年は二段重ねのケーキにしよっか」
「年々段が増えていくのか?」
「ははっ。それいいな。再来年は三段、次は四段、五段……十段!」
「誰が食べるんだ」
「そりゃあ、オレとお前」
「馬鹿か」
 お前が笑う。オレも笑う。手を握って。見つめ合って。
 あの日お前と出会った。ずっとそばにいたのに、知らなくて、気付かなかった。
 それから何度も同じ夜を過ごして、大きく溢れた想いが交わって、繋がって、叶えられたあの日。
 共に過ごす日々に、より固く結ばれていく同じ想いをふたり強く抱いて迎えた、一年前と同じ今日。
「えーと、また一年よろしく、<俺>」
「年始か」
「いいだろ。ある意味年始だよ」
「俺たちの新たな一年の?」
「うわっ気障っ」
「お前……」
「ふふ、冗談。そう、オレたちふたりの、新たな年の始まり」
「うわっ気障っ」
「……」
「冗談だ」
 甘い唇。優しい瞳。愛しい、オレの<俺>。
「愛してるよ、<俺>」
「ああ。俺も、愛してるぞ、<オレ>」
 明日も明後日も同じ。来月も、半年後も、また一年後の今日も。
 だから<俺>、また新しい日々を一緒に過ごして、来年の今日も、一緒に食事を作って、柘榴のケーキを作ろう。
 ふたりで食べて、おいしいなって言って、抱きしめて、愛してるって言おう。
 そしてまた一年後。そのまた一年後。もっともっと先まで。
 今日という日はずっと、オレたちふたりが、ふたり一緒に。
2013.03.24