ねこみみがはえるざくろ ☆
克哉くん=ノマ、<克哉>くん=眼鏡
にゃーΦωΦ




 あらあらどうしたんです、こんな時間に。
 え? 眠れない?
 それではひとつ、お話をお聞かせましょう。
 そう。<克哉>くんと克哉くんのお話です。
 今日の<克哉>くんと克哉くんは、どんなラブラブ生活を送っているんでしょうか。
 少し覗いてみましょうね。


 朝克哉くんが目覚めると、頭には猫耳が、お尻にはしっぽが生えていました。
 普通の人なら驚いてパニックになるところですが、普通の人とはちょっと違う生活を送る克哉くんにとっては、少し驚いたあと、ふうっと溜め息をつく程度の出来事でしかありません。
「猫の耳……でいいんだよな?」
 克哉くんからは、しっぽは自分の目で見えるので、しっぽだなと確認できるのですが、頭に何があるかは当然見えなくて、触った感触から、動物の耳っぽいものが付いているらしいということだけが分かります。
 ではなぜ克哉くんが猫の耳と判断できたかというと、克哉くんの横で気持ちよさそうにすやすや眠る、愛しい半身の<克哉>くんの頭にも、ふさふさした耳が生えているからです。
「え、これ、境目どうなってんの?」
 猫の耳は、普通の耳の代わりに生えていて、頭まで伸びて髪の毛の中にくっついています。
 間近でじっくり見てみても、人間の皮膚と猫耳の境、髪の毛と猫の毛の境がよく分かりません。
 こういうことは考えても時間の無駄なので、克哉くんは考えるのをやめました。
「こんなにリアルだと、萌えとかなんとかってより……」
 猫耳は、まったくもって猫の耳そのもので、耳の中の複雑な迷路のような形まで正確に再現されています。
 よくある萌えアイテム的な付け耳くらいの耳なら、もしかしたらかわいいと思うこともあるかもしれませんが、こんなにリアルだと、かわいいというよりむしろ若干グロいです。
「うーん」
 克哉くんはひとつ唸って、こしょこしょと<克哉>くんの耳の付け根を掻いてみます。
 ふわふわした柔らかい猫の毛が気持ちいいです。
「猫ごっこはたまにするけどさ。だからって実際耳としっぽが生えられても……」
 克哉くんが猫が欲しいと言ったことをきっかけに、たまにふたりで猫ごっこをすることがあります。
 二十五歳体育会系男性ふたりがにゃーにゃー言い合っているさまは、とても滑稽で見ていられるものではないのですが、そうしていちゃいちゃ過ごす時間は、克哉くんも<克哉>くんも、とても楽しいのです。
「うーん」
 克哉くんはまた唸って、<克哉>くんの耳を掻きます。
 こんなに大きな猫の耳を撫でるのは、当たり前ですが初めてです。
 克哉くんの実家では昔大きな雄猫を飼っていて、こうして耳の付け根を掻いてやると、まるで地鳴りのように喉を鳴らしたものでした。
「さすがに喉は鳴らないか」
 ですが、耳の縁に生えている毛に触れると、耳がぴぴぴぴっと動いて、克哉くんはくすっと笑ってしまいました。
「ちょっと……かわいいかも……」
 薄いベージュ色の耳をもにもに撫でて、克哉くんはほんわかした気分になってきました。
 気付くと、自分のしっぽが左右にゆったり揺れていて、なんだかお尻が変な感じです。
「にしても、いつの間に柘榴食べたんだろ……」
 こうなったのは、疑問を持つまでもなく柘榴のせいなのは分かっていますが、柘榴を口にした記憶はありません。
 <克哉>くんの耳を撫でながら、克哉くんは昨日のことをよく思い出してみます。
 土曜日の昨日は、友達の本多くんに誘われて、草バレーを楽しみました。
 週末は引きこもってめくるめく休日を過ごすのが常な克哉くんたちですが、平日に毎夜遅くまで致しまくって、休日も目一杯致しまくっているのでは早死にしそうなので、最近は外に出て体を動かす日を設けることにしています。
 バレーで汗を流したあとはいつものように居酒屋コースで、柘榴を口にしたとすればそこが一番怪しい部分だと克哉くんは睨みます。
「食べ物……お酒……」
 変わらず<克哉>くんの耳をもにもにしながら、口にしたものを細かく思い出します。
 あからさまに柘榴では克哉くんたちが口にするわけがないので、赤いものでなくても、甘酸っぱいものでなくても、何かに巧みに隠して仕込んでくるのが最近の傾向です。
 あとから考えれば、それだ! と特定できるのに、口にした瞬間は全く分からないのが不思議です。
 克哉くんたちは一生こんな逆宝探しを続けるのかとうんざりしていますが、一生ふたりがふたりでいられる対価であるなら、それも仕方ないかと諦めています。
「あ。あれだ」
 やっと思い出しました。
 宴の中、左隣の本多くんとつい話し込んで、右隣のバレー仲間のお酒を間違えてひと口飲んでしまった場面がありました。
 すぐに気が付いて、いやーごめんごめんと笑い合ったのですが、そのバレー仲間が飲んでいたのが、こっくり甘い梅酒ロック。
 梅酒。梅。果実。はいはい。
「なんか、あの人も必死だな……」
 普通の人とはだいぶかなり違う彼の考えることは、普通の人とはちょっと違うだけの克哉くんには分かりません。
 克哉くんたちにちょっかいを出すことが彼にとっては何より幸せなのだろうと、克哉くんはひとつ溜め息をつきました。
「ん……」
 もにもにされ続けている<克哉>くんが、眉を寄せて小さく吐息を漏らしました。どうやらお目覚めのようです。
 さて<克哉>くんは、この状況にどんな反応をするのでしょう。
 克哉くんのように、まずは呆れた溜め息をつくのでしょうか。それとも、にやりと笑って、いい趣向じゃないかとか言うんでしょうか。
 克哉くんはひそかな期待を胸に、<克哉>くんの淡い瞳がゆっくりと露わになるのを見つめます。
「お、おはよ……<俺>……」
 上から覗き込んで、そっと頬を撫でてあげます。
 まだしょぼしょぼ目の<克哉>くんは、撫でた克哉くんの手にすり寄って、傍らに座る克哉くんを見上げます。
 瞳を合わせて僅かに微笑んだように見える<克哉>くんの視線が、しかしすぐさますーっと頭のほうに移りました。
「……」
「あー……はは。なんか、こんなの付いちゃって。しっぽまであるし」
 パジャマのズボンを押し下げて外に出ているしっぽを掴んで、<克哉>くんの前でふんふん振ってみます。
 <克哉>くんは、無言で目の前のしっぽを見つめています。
「お前にも付いてるんだぞ」
 ほら、と<克哉>くんの耳を撫でると、<克哉>くんも自分の耳を触って確かめました。
「昨日さ、間違えて隣の梅酒飲んじゃったじゃん。多分それかなーって思うんだけど」
 布団の中でもそもそとしっぽの確認もしているらしい<克哉>くんは、克哉くんの柘榴混入推理を黙って聞いて、ふうっと溜め息をつきました。
 まずは呆れた溜め息、が正解でした。
 次はにやりと笑って、な流れかと思いきや。
「にゃ…………にゃ!? ……にゃ!?!?」
 <克哉>くんはひと言にゃ、と発したあとに目を見開いて、何やらにゃーにゃー喚いてとても慌てています。
 猫耳が付いているから猫ごっこかと思いましたが、なんだか様子が違います。
「<俺>……? どうか……した?」
「にゃ! にゃ! にゃー! にゃにゃにゃにゃにゃ! っ、にゃー!!!!」
 <克哉>くんはやっぱり慌てた顔で、喉を押さえてにゃーにゃー言うだけです。
 そのにゃーにゃー言う声も、確かに聞き慣れた<克哉>くんの低音ボイスなのですが、猫の真似をしているというよりは、まるで猫そのものなのです。低音セクシーエロボイス猫です。
「え……まさかと思うけど、お前……」
「にゃー……」
「言葉、出ないのか?」
「にゃー……」
 眉をハの字にして、<克哉>くんがこっくんと頷きます。
 猫耳付けて、困り顔で、素直に頷く<克哉>くんをかわいいと思ってしまいましたが、今はそんな場合ではありません。
「にゃーしか言えない……?」
「にゃー……」
「えぇぇ……」
「にゃー……」
 克哉くんと<克哉>くんは、困った顔を見合わせるばかりです。
 克哉くんは普通に喋れるのに、<克哉>くんだけにゃーしか言えないなんて。
「えー……うーん、まあ、今日日曜だし、いっか」
「にゃっ!」
 よくない! と言っているようです。
「仕方ないじゃないか。明日もこうなら困るけど」
 大抵において柘榴の呪い、いえ魔法は、ひと晩過ごして目覚めると、元通りになっていることがほとんどです。
 例外的に、翌日が休日だったりすると、日を跨いで効果が続く時もありますが、今回は明日は月曜日でお仕事があるので、長くてもひと晩経てば、耳もしっぽもなくなって、<克哉>くんは人間語を話せるはずです。
 親切なんだかなんなんだか、複雑な心境のする仕様です。
「にゃー」
 <克哉>くんは不満げに唸ります。けれども口から出るのはにゃーなので、<克哉>くんには悪いですが、かわいくて仕方ありません。
「猫語しか話せなくても支障はないし、ちょっと我慢しよう?」
 人事だと思って! と睨む<克哉>くんの左耳の付け根を、もにもにします。
 もにもにもにもにしていると、気持ちいいのか、むくれる<克哉>くんの眉間の谷が段々浅くなっていきます。
「な?」
 両手で両耳をもにもにして、上目遣いで意識してかわいこぶって囁くと、<克哉>くんの口元が一瞬緩みました。
 <克哉>くんは口には出しませんが、心の中ではしょっちゅう、俺の<オレ>かわいいかわいいと思っていることを、実は克哉くんは知っています。
 たまにはちゃんと口に出して言ってほしいと思いますが、言われたら言われたで、恥ずかしくて恥ずかしくて死にそうになるので、言わないままでいいとも思ってジレンマです。
 せっかくなので、時々<克哉>くんの想いを利用して言うことを聞かせることもある、黒い克哉くんなのでした。
「な、<俺>?」
 耳をもにもに頭をわしゃわしゃ頬をむにむにあれこれ構って甘やかすと、<克哉>くんは心地好さそうに目を細め、渋々ながらも頷き……の直前に。
 ぐる、ぐる……ぐるぐるぐるぐるぐる。
「!!」
「ぶはあっっ!!」
 <克哉>くんの喉からかわいい音色が聞こえてきて、<克哉>くんは目を見開き、克哉くんは盛大に噴き出しました。
「おまっ、おまっ、喉っ、喉鳴らしっ……ぶふっ! かわいっ!かわいっ!」
「っ! にゃ! っ! っっ!!」
 さっきは喉が鳴らなかったのに、こんなのかわいすぎて反則です。
 真っ赤な顔で爆笑する克哉くんに、真っ赤な顔で文句を言おうとする<克哉>くんですが、どうしても「にゃ」しか出てこないので、苛立ちのぶつけどころがなく口をぱくぱくするだけです。
 めったに見られない、悔しげにあくあくする<克哉>くんに、克哉くんはますます笑いが止まりません。
「ふ、ふ、ぶふっ! ね、もっかい、もっかいごろごろして」
「っ、っ!」
 耳の付け根をまた掻こうとしましたが、<克哉>くんにぺしっとはたかれてしまいました。
「あっ。あーもー<俺>ぇ」
 大きく舌打ちをした<克哉>くんは、克哉くんを乱暴に押し退けてベッドから降りました。
 いつもならここで、よくも笑ってくれたじゃないかとか言って押し倒されてがお約束ですが、さすがの<克哉>くんもそんな気にはなれないようです。
 ズボンから出た長いしっぽをぶんぶん振り回し、猫耳をぴったり寝かせてサニタリーに向かう<克哉>くんの後ろ姿に、克哉くんはきゅんっとしました。
「これは……かわいすぎるかも……」
 ぶりぶりする<克哉>くんとは裏腹に、克哉くんはきゅんきゅんして、ベッドの上で身悶えました。


「はあ……」
 晩ご飯の後片付けをしながら、克哉くんはそっと溜め息をつきます。
 ソファに座ってむっすりテレビを見ている<克哉>くんを横目で映して、もう一度溜め息をつきました。
「そんな……怒んなくても……」
 克哉くんの不満とシンクロして、お尻のしっぽがふわんふわん揺れます。
 猫耳しっぽが生えた朝から晩ご飯を終えたこの時間まで、<克哉>くんはひと言も発しません。
 朝はぶすぶす顔を洗ってぶすぶすご飯を食べてぶすぶす洗濯して、昼はぶすぶす本を読んでぶすぶすご飯を食べて、ぶすぶすお風呂掃除をして、ぶすぶすぶすぶすぶすぶす……そして現在に至ります。
 克哉くんとしては、柘榴効果とはいえせっかくなので、お互いの耳をもにもにし合って、しっぽをこちょこちょし合って、ふわふわじゃないかとか言って、お前だってふわふわだよとか言って、それで、にゃーにゃー言って、にゃんにゃん言って、にゃんにゃんして……
「っていやいやいやいや! オレは別にそんなっ!」
「……」
「あっ……あっ、ごめ、うるさくして……」
「……」
「……」
 つい大きな声が出てしまって、<克哉>くんに睨まれました。
 冷たい目が、克哉くんを寂しくさせます。
「はあ……」
 今日は日曜日です。本当なら、食事を摂る間も惜しくベッドでソファで仲良くしているはずなのに、気付けば目が覚めてから一度もキスすらしていません。
 猫<克哉>くんに萌えきゅんしていた朝には、こんなことになるとは思いもしませんでした。
 かわいい猫耳が生えているのに。ふわふわしっぽが生えているのに。ふたりで一緒にいるのに。
「なあ、<俺>……?」
「……」
「……機嫌、直せよ……」
「……」
「笑ってごめんね?」
「……」
「……」
 片付けを終えて、<克哉>くんの隣に腰掛けて猫撫で声で媚びます。
 肩に凭れて、一生懸命かわいさを装って、むっすりする<克哉>くんを見上げます。
 けれども、<克哉>くんは全然克哉くんを見てくれません。
「<俺>……」
 一日中ふたりでいられていちゃいちゃできる休日なのに、こんなの。
「……」
「……」
 思わずじんわり涙が出てきます。
 猫耳生やして、ルームパンツからしっぽを出して、無視されて泣いて。
 とってもバカらしいのに、溢れる涙が止まりません。
「……」
「うー……」
「……」
 俯いて、ぽとぽとぽとぽと涙を零していると、頭上から<克哉>くんの溜め息が聞こえました。
「……」
「<俺>、んっ」
 顎を上向かされて、一瞬見つめ合ったあと、<克哉>くんの唇が克哉くんの唇に重なりました。
 今日初めての接触に、克哉くんはぶるりと震えました。
「ん、ん」
 さっきは悲しくて、今度は嬉しくてやっぱり涙が出ます。
 角度を変えて優しく唇を吸う<克哉>くんに焦れて、克哉くんから舌を入れます。
「ん、ん!? んん!?」
 <克哉>くんの舌に絡めた瞬間、克哉くんはびっくりしました。
 なぜかって、<克哉>くんの舌の表面に、ざらざらした突起が付いていたからです。
 克哉くんの舌はなんともないので、声と同じく<克哉>くんにだけ現れた変化のようです。
「んふ、ん、ん」
 ざらざらの感触にびっくりした克哉くんに、<克哉>くんが唇の端を上げたような気がしました。
 でも克哉くんにとっては、そんなことはどうでもいいことです。
 やっと<克哉>くんに触れられた嬉しさで、ざらざらした舌に夢中で吸い付きます。
 いつもたくさん気持ちよくしてくれる<克哉>くんの舌は、ざらざらしているせいかいつも以上に気持ちがよくて、克哉くんはすっかり全身快感の海に浸ってしまいました。
「ん、あ、あ、んーっ」
 柔らかいけれどざらざらで、ざらざらなのに痛くなくて、ただひらすら気持ちがよくて蕩けてしまいそうです。
「んま、あ、や、や、んんっ」
 <克哉>くんが離れていこうとしたので、克哉くんはいやだと首を振って吸い付きます。
 そんな克哉くんに、<克哉>くんは唇を合わせたままくすくす笑って、ぎゅうっと強く抱きしめてくれます。
 克哉くんは嬉しくて気持ちよくて愛しくて、何が何やら頭の中がぐちゃぐちゃです。
「はふ、は、は、は、は」
「ん」
「ん、ん、ん」
 とっても長いキスをして、やっと離して息を切らす克哉くんに、<克哉>くんはちゅっちゅっと顔中にキスをくれます。
 <克哉>くんとぴったり密着した胸の尖りが、お腹の下が、そしてお尻のしっぽがぴんっと立っていて、もう痛いくらいです。
「<俺>、<俺>」
「お前の舌は、普通にゃんだにゃ……あ」
「あ」
 ふわふわの耳元で零れた<克哉>くんの人間語に、ふたりは顔を見合わせます。
「言葉、戻ってたのか?」
「いや、さっき確認した時は、まだ戻ってにゃかった」
「……まだ、完全では……ないかな」
「……そうだにゃ」
 人間語と猫語の融合に、ついまた笑ってしまいそうになりますが、やっと<克哉>くんが機嫌を直してくれたのだから、なんとかこらえます。
 どうして急に戻ったのか。
 ふたりで不思議に見つめ合います。
「……ああ、もしかして」
「え? あ、んっ」
 何か思い当たったらしい<克哉>くんの唇が、長いキスの痺れが残る克哉くんの唇にまたくっつきました。
 なんだかよく分かりませんが、気持ちいいのでとりあえず味わいます。
「んん、んー、んー……」
 どうしてどうして、<克哉>くんのキスは、<克哉>くんとのキスはこんなに気持ちがいいんでしょうか。
 どうして? そんなの、大好きで大好きで、おかしいくらいに大好きな<克哉>くんとのキスだからに決まっています。
 大好きな<克哉>くんとキスしていると、頭がぼーっとして、くらくらして、息がつまって、つまって、つまって……。
「ん……」
「んあ、んー……」
 ちゅっと小さな音を立てて、溶けるくらいに交わっていたふたりの唇が離れます。
 ぽよんと<克哉>くんを見つめると、<克哉>くんが優しく笑いました。
 もうぶすぶすしていないあたたかい優しい目がじっと見つめて、克哉くんはまた泣きそうになりました。
「<オレ>」
「ふにゃ……にゃ? っ! にゃっ!?」
 <俺>、と返したつもりが、克哉くんの口から出た声はどこからどう聞いても「にゃ」で、克哉くんは驚いて「えっ!?」と言いました。
 けれども口から出たのはやっぱり「にゃっ!?」で、克哉くんはパニックです。
「ふ。やはりにゃ……ち、これでもまだ完全じゃにゃいのか」
「にゃ!? にゃにゃー!?」
 どういうことだよ!?と言ったつもりです。
「キスで言葉が交換されたらしいにゃ。こんにゃことにゃら、くだらにゃいことに拗ねてにゃいで、さっさと押し倒しておけばよかった」
 まったく時間を無駄にしたと、<克哉>くんは舌打ちをします。
 克哉くんは必死で言葉を出そうとしますが、頑張っても頑張っても、口から出るのはにゃーだけです。
「悪かったにゃ、<オレ>。寂しかっただろう」
 ふわん。<克哉>くんの手が、初めて克哉くんの耳に触れました。
 付け根をもにもにされると、まるで優しく抱きしめられているような気持ちになって、パニックになった心の中が一気に鎮まってしまいました。
「にゃ、ふにゃ……」
 もにもに。もにもに。もにもに。
 ……くるくるくる……ぐる……ぐるぐるぐるぐるぐるー。
 呼吸するたび、喉が勝手にぐるぐる鳴って、止めようにも止めかたが分かりません。
 それどころか、<克哉>くんが両手で耳をもにもにし続けるので、ますますぐるぐる喉が鳴って、ついにはどぅーどぅーとすごい音になりました。
「気持ちいいか」
「ぷるにゃ、ぷる」
 喉が鳴る最中に喋ろうとしても、ぐるぐるの音と合わさって、恥ずかしいほどかわいい音しか出てきません。
 真っ赤になる克哉くんに、<克哉>くんは嬉しそうに目を細めます。
「俺のつまらにゃい意地のせいで、こんにゃいいものが付いたお前を放置するにゃんて」
 きゅっと抱きしめられます。
 まだところどころにゃーにゃー言っているのでいまいち台詞が決まりませんが、<克哉>くんはもう気にしないことにしたようです。
「さて、<オレ>?」
「にゃうん!?」
 しっぽの付け根をくすぐられた瞬間、克哉くんに電流が走りました。
 こしこし指先で掻かれると、ともすればお腹の下を触られるのよりも強烈な快感が全身を襲います。
「ぷるっ、にゃ、にゃ、ぷるにゃっ」
 だめ、だめ、と言っているのに、言葉になりません。
 もうもう、そんなにこしこしされたら、おかしくなってしまいます。
「せっかくの日曜、朝から放置して寂しがらせた分、たーーーっぷり、愛してやるからにゃ」
「にゃん、にゃ、にゃっ」
「ほら」
「にゃあんっ!!」
 ざらざらの舌が首筋を舐めて、克哉くんは悲鳴を上げました。
 しっぽへの攻撃とのダブルパンチで、危うく達してしまうかと思いました。
「舌の形状は交換されてにゃいからにゃ。どういうことか、分かるにゃ?」
「にゃ、にゃ、にゃ……」
 全身の血が沸騰しています。鼻血が出そうです。
「それに……」
「!!!!!」
 手を引かれた先、<克哉>くんの下着の中でこれでもかと存在を主張する雄の証に、舌と同じ感触があって克哉くんは戦慄しました。
 せっかくの日曜日、こんなことになって寂しいと思っていましたが、こっちの意味でのこんなことになっても、それはそれで克哉くんは体が震えて涙が滲みます。
「まったく、朝からにゃんて惜しい時間を過ごしたんだ。俺は馬鹿だ。許してくれ、<オレ>」
「ふにゃ、にゃ、にゃ……」
 いやいろんな意味で許してほしいのはオレのほう。
 そう言いたくても言えません。
 だって口から出るのはにゃーだから。
「贖罪だ、<オレ>。俺のコレを捧げて、好きにゃだけ、どろどろに、ぐっちゃぐちゃに掻き回して、放置した罪をつぐにゃうからにゃ」
「にゃ、にゃ……」
 もふもふっ。耳の付け根に<克哉>くんの鼻先がもぐります。
「ようやく、楽しい時間の始まりだ」
「にゃっ!にゃあっ!」
 しっぽの付け根を摘まれて、ぞろりと首筋を舐められました。
「さあ、そのいい声で、思う存分にゃけ、<オレ>」
「にゃ……にゃ……にゃああああん!!!!」
 可憐な猫克哉くんのお腹の下に、凛々しい猫<克哉>くんのとげとげした雄が……おっと、おやおやもうこんな時間。
 早く寝ないと、変態、いえ金髪の魔法使いがさらいにきますよ。おおこわい。
 この続きはまた今度。
 とりあえず今夜は、めでたしめでたし。
2013.03.24