ふたり ○
生まれてきてくれてありがとう



「は、は、<俺>……」
「ん」
「んん」
 絶頂のあとの荒い息のまま、激しく唇を交わす。
 次から次へと溢れ続ける愛情が、舌の上で絡み合う。
 何度交わっても足りない。たっぷりと満たされているのに、もっと欲しい。
 そう思うのは、愛しくてたまらない、この世で唯一の半身だから。
「<俺>……」
「<オレ>」
 ずっとこうして、見つめ合っていたい。他のものなんて何もいらない。何もなくていい。
 お前がいれば、それでいい。
「誕生日おめでとう」
「え」
「十二時。三十一日になった」
「あ……」
「愛してる」
「うん……お前も、おめでとう。愛してる」
 微笑み合って、今度はそっとくちづける。
 柔らかく吸って、繰り返し触れて、あたたかな心地好さに包まれる。
 また見つめ合って、滑らかな頬を撫でて、やっぱりまた唇を重ねて。
 限がないやり取りに、お互いにくすくすと笑う。
「お前とふたりで生まれてきて、よかった」
「ああ。お前が俺で、<オレ>でよかった」
 ふたりでひとり。ひとりがふたり。だから、きたるべき時がふたりを分かつこともない。
 生まれてきてから、時を終えるまで、終えてもなお、ふたりはずっと一緒にいる。
 それは特別なことではなく、極々自然で、極々当たり前なこと。
 何度も紡ぐ言葉。何度も伝える言葉。何度も見つめ合うかけがえのない時。
 なんて幸せ。
 お前がここにいれば、ふたりがここにいれば、それだけで。
「愛してる、<オレ>」
「愛してる、<俺>」
 お前に伝えたいことも、知っていてほしいことも、お前から与えられたいことも。たったひとつのことだけ。
 これから先、何度この言葉を交わすんだろう。何度体を重ねるんだろう。
 きっと、ずっと。永遠に。
 果てなく続く当たり前の日を、ふたりで迎えた初めての夜のこと。
2012.12.31