土曜日にはパソコンを買って □
眼鏡視点+最後ノマ視点
眼鏡様DQN客




 励んでいたら、いきなりフロアランプの電球が切れた。
 とろっとろに蕩けたこいつが、俺に尻を突き出して自ら中を開いてかわいくおねだりしている真っ最中に。
 買ってからまだ日が浅いのに使えない。このサイズの買い置きはなかったはずだ。全く本当に使えない。
 シーリングライトを点けたものの、やはり電球の光に晒されたほうがこいつのエロさがより引き立つ。
 なんならシーリングライトをLEDにして、調光色できるようにすればいいんじゃないか? そうすれば、フロアランプを置いてるチェストの上が空いて、他にいろいろ置けるから便利じゃないか。フロアランプを消して常夜灯を点けて、って手間も省けていい。フロアランプは本多にでも売り付けよう。
 泣きながら早く早くと腰を振る半身に、シーリングライトをLEDにしたいんだがいいかと尋ねたら、うんいいからいいから早く、と許可を得たから、早速明日買いに行くことにする。土曜は一日中セックスに耽っていたいが仕方ない。
 ここに引っ越してきた時からそうすればよかったなとあれこれ考えていたら、こいつがついにしゃくり上げて泣きだしたから、焦らして悪かったとキスしてやって、真っ赤に熟れてひくつくそこに今夜二度目の欲を押し込んだ。

 
 翌朝、というか数時間ほど微睡んだあと、腕の中で眠る、まだまだ淫靡な甘い匂いを放つ半身の首筋に吸い付きたいのをなんとか堪えて、その体を揺すり起こす。
 勘違いしてすり寄るこいつに、ライトを買いに行くぞと言うと不思議そうな顔をされた。なんだその顔は。買っていいと言ったのはお前だろう。
 頭にでかい疑問符を付けたままのこいつの腕を引き顔を洗わせ着替えをさせて、玄関の扉に手を掛ける。扉が開いてひとつになる瞬間まで、こいつはなんで? なにが? なにを? と繰り返していた。

 三駅先の家電量販店に行き、シーリングライトを買った。思っていたより安かったから、ついでにリビングの分と、ついでについでにとあれこれ細々と買って、他に何かないかとうろうろして、ふと思った。
 そういえば、もういい加減買い替え時じゃないのか? まだ動きはするが、大学時代に中古で買った代物だ。だいぶ動作も鈍くて苛々することが多い。よほどのことがない限り家に仕事は持ち込まないのがふたりのルールだが、たまにあるよほどのことの時には特に不便だ。
 前から欲しいと思ってはいたが、ケチな半身が、まだ動くんだからもったいないと言って機を逸していた。
 ちょうどいい。買っていくか。
 一通りラインナップを見て、店員に声を掛けて値段交渉をした。どうせあとであいつにぴーぴー言われるんだから、なるべくなら安く済ませておいたほうがいい。
 現金値引きしろと言ってるのに、ではこのお値段で、この分ポイントをお付けするということでと馬鹿なことを繰り返されて、うんざりしていたら店長を呼ばれた。
 ポイントなんていらん、それだけ付けられるならその分を現金で引けともう何度言ったか分からないことを再度言うと、やっと渋々承諾した。全く、無駄な時間を取らされた。
 当日配送できると言うから頼んだ。さすがにこの大荷物じゃ持ち帰る気になれない。小物もそれなりな量になったが、そちらはお持ち帰りくださいと言われた。どうせくるんだから、一緒に持ってくればいいじゃないか。融通が利かない。これ以上押し問答をするのも面倒だから、ここは殊勝に折れてやる。
 ありがとうございましたと合唱する店員たちの声には棘があったように聞こえたが、まあ気のせいだろう。


「ただいま」
「たーだーいーまー」
 背後に現れた半身が、地を這うような声を出した。明らかに怒っている。とりあえず無視してリビングに入る。
「お前さ、ドSに見せかけたドMなの?」
「は?」
「怒られるってさ、分かってるんだよな? 分かっててやってるんだよな? そんなに怒られたいの? Mなの? ドMなの?」
「俺はお前なんだからそうなんじゃないか」
「おーまーえー!」
 これくらい、想定内だから気にもしない。持ち帰った小物を選り分けることにする。
「なんかさ、どっから突っ込んでいいか分かんないんだけどさ、どうすればいい?」
 くそ、電池忘れた。まあ今度でいいか。
「まずライトね。オレ寝室のもよく分かんないまま買いに行っちゃったけどさ、なんでリビングの分まで買ってんの?」
 LED電球もずいぶん安くなったな。時代ってもんか。
「思ってたよりは安かったからね。ああこんなもんか、じゃあリビングの分も、ってか? ないわー」
 インクは高いな。ぼったくりだろうこれ。
「でね、パソコンね。パソコンて。ちょうどいいから買ってくって。いやいやいやいや」
 ドライヤーはまだ買わなくてよかったかもしれないが、あれも大学時代から使っているし、まあついでだ。
「お前のはさ、値段交渉じゃなくて脅しって言うんだよ? 知ってる?」
 やっぱりミニ冷蔵庫も買えばよかったか。失敗したな。
「店員さんも店長さんも涙目だったじゃないか。恥ずかしい。申し訳ない。もうあそこ行けない」
 なんだこれは。どこから開けるんだ。ん、ここか? もっと分かりやすい表示をしろ。パッケージデザインにばかり工夫を凝らしても、実際手にする消費者がうんぬんかんぬん。
「っていうかトータル十六万ってなんだ十六万って! じゅうろくまん!? はあ!? お前何考えてんの!?」
 ふう。だいぶゴミが出たな。これは資源ゴミか? ……面倒だ、こいつにやらせよう。
「カードを魔法のアイテムとか思ってない? カードで買ってもお金がかかるんだよ? 銀行口座から来月引き落とされるんだよ? 分かる?」
「お前ゴミとかまとめとけ」
「もうオレいや。こんなバカがオレの片割れとか嘘だ」
 とかなんとか言いつつ、素直に片付けるこいつがかわいい。
「十六万くらいでがたがた言うな。LEDだと調光できてお前が口うるさく言う節約になるんだし、パソコンだって必要なものなんだからいいだろ」
「まあね、パソコンもうだいぶ古いもんな。買い替えだとはオレも思うよ。でもさ、オレら引っ越したよな。諸々掛かって貯金かなり減ったよな。節約もそのせいだよな。もう少し貯めてからとか考えないの?」
「考えないの」
「今お前はさらにオレの神経逆撫でしました」
「全く、ぴーぴーぴーぴー尻の穴の小さい男だな。まあ、だから締まりがよくてい、っつ」
 丸めたビニール袋が飛んできた。
「嫁に暴力を振るわれます」
「なんか言ったか?」
「別に」
 かなり怒っているが、こいつはなんだかんだで俺に甘いから、どうせすぐにこれもおさまる。小さいことに喚くのはいつものことだし、『穏やかで優しい佐伯さん』が俺の前でだけはこんなに感情剥き出しな子供みたいになるなんて、優越感が得られて案外いいもんだ。
「先に照明外しておくぞ。手伝え」
「んんんんんん!!!! むかつく!!!!」
 ふ。かわいいやつめ。

 ダイニングテーブルを踏み台代わりに、備え付けの照明の取り外しはあっさりと終わった。
「こんな簡単にできるんだ。うーん、これどうやってしまっておこう」
「新しいライトの空き箱に入れとけばいいだろ」
「あ、なるほど」
 散々文句を言っていたこいつも、やっと諦めがついたというか開き直ったのか、新しいパソコンに思いを馳せたり、貰ってきたカタログを見てライトのシミュレーションをしている。
「ふー。あ、もう十二時半じゃないか。お腹減ったー。お昼にしよっか」
「そうだな、腹が減ったな」
「起きてからなんにも食べてないからな……って、なに?」
「ん? 腹が減ったんだろう?」
「うん。だから、ごはん」
「ああ。配送は夕方以降だからな。それまで腹ごしらえだ」
「バ、ちょ、おまっ。あ、やっ」
 いつもの土曜なら、この時間はベッドの中で存分にこいつを味わってる頃だ。予定外の外出でせっかくの週末の時間が減った。淫乱なお前は物足りなくて寂しかっただろう。悪かったな。
 怒らせた詫びも兼ねて、たっぷり濃密にかわいがってやるぞ。

 ∞ ∞ ∞

「<俺>ー、ごはーん。パソコンどかしてー」
「んー」
「ちょっとー」
「んー」
「んもう」
 五時前にライトとパソコン──と洗面所に置くらしい扇風機──がきた。直前まで体を繋げてたオレたちはものすごく焦って、<俺>が半裸で対応して恥ずかしかった。
 ライトの設置は取り外し同様あっさり終わって、ひとしきりふたりで明るさを変えたり色を変えたりして遊んだ。
 あんなに怒ってたくせにずいぶん楽しそうだなとからかわれたけど、どんなに怒ってもなにを言っても、もう買ってしまったんだから、活用しなきゃ損だ。
 梱包材やらなにやらを片付けている間に、パソコンの初期設定を<俺>が済ませた。画面のきれいさや処理速度の速さに感動してると、やっぱり<俺>にからかわれた。いいだろ、オレだって欲しいとは思ってたんだから。
 そんなわけで、さっきから<俺>は、ダイニングテーブルに新旧二台並べて、データを移したり設定をいじったり、新しいおもちゃにすっかり夢中だ。
 まさにほくほく顔って感じで、ああいうところはほんとに子供みたい。
 朝からなにも食べてないせいで、オレはお腹ぺこぺこなのに、あいつはどうでもいいらしい。ほっとけばあのまま夜中までいじってそうだ。
 そんな姿を、まったくこいつは仕方ないんだから、と微笑ましく見てしまうオレは、結局こいつに甘いんだ。悔しいけど、これが惚れた弱みってやつかな。
 にしても。十六万か……貯金が底をついてるわけじゃないからまだいいけど、かなりだいぶすごく痛い出費だ。
 ボーナス、せめて夏のボーナスがあれば……ああ、中途入社はつらい。
 今でも結構節約してるつもりだけど、削れるとこはもっと削っていかないと。
 とりあえず、しばらくは朝食はバナナってことで、確定な。
2012.07.29