殻 △
エロ有 ※人によってはスカとも取れる描写があります※
しお*ファンタジー!!!!!*望む閉じた世界と願う外の世界
2013.05.06加筆




 お前に与えられることなら、オレはなんだって受け入れる。
 お前がくれるものなら。お前が注ぐことなら。
 赴くままにいつだって、そのままのお前が欲しい。
 お前の全てを包んで、抱きしめて、それがオレの幸せ。
 オレはお前。お前はオレ。お前とひとつになることが、オレの全て。
 だから<俺>、オレに、お前をもっと。


「あっ、っ、あっ、あっ」
 突き上げられるままに上がる声は、みっともなく掠れてうまく喉から出ていかない。
 あまりの激しさに、息継ぎもできなくて苦しい。揺さぶられる体が軋む。
 今にも意識を手放しそうになるけど、それはいやだ。目の前のお前を、見つめていたい。
「っ、お、<俺>」
 <俺>を呼ぶ声すら掠れて音にならない。呼びたい。お前を呼びたい。
「うっあっ、<俺>っ、<俺>」
 手を伸ばせば抱きしめられるのに、力が入らなくてその手が上がらない。
 触れたい。抱きしめたい。
 せめてもと、強く腰を掴む<俺>の手に、震える手をなんとか重ねて、オレと同じ形のその指をぎゅっと握った。
「んあっ!あっ、あああっ!!」
 最奥のさらに先まで侵そうと、狂暴に抉られる。
 散々に掻き交ぜられる粘膜の脈動は、脊髄に響いて頭の中まで伝わってくる。
 体内を責める<俺>の熱は、蕩けて爛れた内壁よりも熱いのが、薄い膜一枚に隔てられてもよく分かる。
「っ、いいっ、あっ、<俺>っ、<俺>っ、きもち、いっ」
 息ができなくて苦しいのに。激しく打ち付けられて痛いのに。それすら高ぶる要素になって、全身が快感だけに満たされる。
 気持ちいい。愛おしい。幸せ。
 <俺>のことが好きで、大好きで、好きすぎて気が狂う。
 オレを見つめる<俺>も狂気の目をしていて、だからオレも<俺>も、きっとお互い狂ってる。
 狂わないわけがない。こんなに愛しいから。こんなに愛してるから。
 だから、なにをされてもいい。なんだって、いくらでも、四六時中<俺>が欲しくてたまらない。
 もっとしてほしい。もっと強く。もっとひどく。
「あああっ、ああっ!あ、いく、い……っ!!」
 <俺>から与えられる強烈な快感が、全身を沸騰させて一瞬にして白く弾ける。
 さっき一度放たれているのに、そんなことはもう忘れたような激しい絶頂。
 どくどくとしぶき上げるオレを見下ろしながら、<俺>は変わらず激しく腰を打つ。
 絶頂のさなかをさらに追い立てられて、快感を処理できなくなった体が激しく痙攣を起こす。
「あああっ! やだ、やだ、やだあっ!!」
 行きすぎた悦楽は恐怖を呼ぶ。心も体も壊れてしまって、自分を見失う。
 力強く穿つ<俺>の激しさだけが、粘膜を掻き交ぜる熱さだけが、千切れそうな意識をこの場に繋ぎ止める。
 <俺>が与えるものに恐怖を感じて、<俺>が与えるものに縋って安堵する。
 オレは<俺>に掌握されて、<俺>だけを感じていればいい。
 悪魔に魅入られた<俺>なら、望めば数多の人間を平伏させることも容易だったのに、<俺>が支配するのはオレひとりだけ。
 <俺>が求めたのは、オレのことだけ。
「あっ、やあっ! ああっ! ああああっ!」
 掠れた絶叫は、朦朧とするオレの耳にかすかに届くだけで、部屋にはオレたちが混じり合ういやらしい音だけが響く。
 やっと吐精を終えたオレの熱は、少しも冷めることなくびくびくと震えて上向いている。
 続けざまに穿たれる体はもう指一本動かせなくなって、握った<俺>の指先を辛うじて離さずにいるだけだ。
「あ、あ、あ、だめ、だめ、だめ、やだっ」
 達したのにも構わず責められるうち、苦痛を伴う圧迫感が体の中心に集まって、射精感に似た感覚が下半身から急速にせり上がってくる。
 無意識にもがくオレを無視して、<俺>は角度と深さを変えてひたすら激しく責め立てる。
「ひっ──!!」
 血の引いた首筋がすうっと冷めていく。解放を求める下腹が疼いて鳥肌が立つ。
 押し上げる苦しさが境を越えた瞬間、一気に快感に変わった電流が全身を巡って、ただ一点の狭い出口を束になって貫いた。
「あっ、あっ、あああああっ!!」
 枯れた喉を引き裂く悲鳴と共に、オレの先端から色のない透明な液体が射精のように噴き出す。
 触れられてもいないのに、精ではない滴が次々と飛び散って、先に放った白濁の粘液とも混じってオレの体と<俺>と繋がった部分までをぐっしょりと濡らしていく。
「あーっ、あー」
 まだ溢れるのかと自分でも思うくらい噴き上げる間も<俺>の責めは止まらなくて、気持ちいいのか苦しいのか、麻痺した熱さが掻き回す。
 閉じることができない唇にまでも、滴がかかって耳朶に伝った。
「は、は、はあ、あ……」
 頭がぼうっとして焦点が合わない。自分がどこにいるのか、なにをしているのかも一瞬混乱したオレの指を、<俺>が強く握ったおかげでなんとか我に返った。
「あ、ああ、んあ……」
 陶然と喘いで<俺>を見つめると、満足そうに唇を吊り上げた<俺>が、小刻みに一層激しく往復したあと、眉を寄せて中から引き抜きオレを跨ぐ。
「くっ」
「ふあっ! あ、あ……」
 覆っていた薄いゴムを外して、オレの胸の上で<俺>が達する。
 顔にかかる熱く濃い粘液の感触がたまらない。
 <俺>の欲望に汚される行為に、被虐心が刺激される。
 射出に震える硬いそれを頬になすりつけられると、思わずうっとりしてしまう。
 怖いくらいの快感をくれる、オレだけのための愛しい<俺>のもの。
「淫乱」
 そんないやらしいことを思ったのが分かったのか、<俺>が嘲る。
 でも構わない。隠しようのない事実だから。
 頬にかかった粘液を先端に絡めた<俺>を、口元に当てられる。当たり前に口を開けて舌を伸ばして、汚れた表面を舐め取り中の残滓をそっと吸い取る。
 そのままの<俺>を感じるのが一番だけど、付ける時は口で清めろということを示しているから、それはそれで嬉しい。
「ん、ん」
 清めの行為のはずが、ゆっくりと揺さぶる<俺>に合わせて煽る奉仕に変わる。
 あっという間に口いっぱいに膨れた塊が、喉奥を突く。
「んっ、んっ、んうっ」
 髪を掴まれて、無遠慮に前後される。
 オレの意思を無視した動きに翻弄されて苦しいけど、好きにされているということだけで快感が湧き出す。
 このまま口に出されて飲み込みたい。そう思った途端、無情に抜かれて泣きそうになった。
「こっちのほうが……いいだろ……っ」
「ああっ!!」
 じんじんと脈打つ窄まりに、また<俺>が奥深くまで突き入れられる。
 さっきとは違う直接的な熱に、体内が悦んで沸く。
「ひ、あ、ああっ、やあっ」
 散々に擦られているけど足りなくて、もっと欲しくて、自分でも腰を揺する。
 でも<俺>はその勝手が気に入らなかったのか、オレの腰を少し浮かせたあと動けないようにきつく押さえ付けると、体重をかけて激しく打ち込んできた。
「ああああっ!! あっ、あっ、<俺>っ、いいっ、<俺>っ、いいよぉっ!」
 壊れてしまう。
 壊せばいい。めちゃくちゃに、戻れないくらいに壊して、なんの感情もない、<俺>を求めるだけの人形にしてほしい。
 他にはなにも、誰もいらない。
 このベッドの上だけが世界の全てで、<俺>とすることだけを考えて、<俺>のためだけに体を開くいやらしい塊になりたい。
 <俺>と繋がることが、唯一の生きる意味。
 そんなことを考えるなんて、やっぱりオレは狂ってる。
 それでもいい。だって<俺>も同じ。
 オレはお前でお前はオレ。オレが思うことは、<俺>が思うこと。
 ──澱む闇にお前を閉じ込めて、引き裂き、壊して、全てを奪いたい。
 ──肉のひと欠片、血の一滴残らず俺に取り込んで、完全にひとつになりたい。
 <俺>の目が言う。
 いいよ。そうして。お前の望むままに。オレを、お前の好きにして。
 お前が望むなら、なんだっていい。全部受け止めるから。
 だから。早く。
「や、や、も、いく、出るっ」
「<オレ>っ」
「<俺>、<俺>、<俺>っ」
「あっ……」
「あああああっ!!!」
 音のない嬌声も、<俺>にはきっと届いてる。
 <俺>を呼ぶ声も。オレの想いも。
 体内で放たれた<俺>の熱さが、<俺>の想いも注ぐ。
 オレだけが感じる。オレだから分かる。
 ──このまま、ふたりのだけの世界で。
 ほら、やっぱり。オレとお前は、同じ狂気に冒されてる。


 目を開けると、腕枕をしてオレが戻るのを待っていた<俺>に、小さくキスされた。
 意識を失っていたのはほんの数分で、その間に<俺>はオレの体と顔を拭いて、シーツの上に敷いたタオルを寄せて、粗方処理を済ませてくれていた。
「大丈夫か?」
「ん……」
「水飲め」
 枕元に置いたペットボトルの水をひと口含んで、口移しでオレに飲ませる。
 ついでに舌を絡ませて、喉と心が潤う。
「ふ……」
「声、出るか?」
「ん、あー、あー」
 声帯を震わせたはずの空気は、音にならずにそのまま口から出て行って、思わずふたりで苦笑する。
「朝には少しはよくなってるだろ。影響あるなら、会社では風邪引いたってことにしておけばいい」
 分裂している時にできたふたつの体の違いは、外でのひとつの体にどう混ざってどの程度影響されるのかは実際外に出るまで分からない。
 明日は<俺>が表の予定だけど、この喉の影響がどう出るか、それは今考えても仕方ない。
 外に出て。会社で。
 そうだ。朝になればベッドを出て、着替えをして、朝ごはんを食べて、会社に行くんだ。
 だからオレたちはふたりになった。
 家族がいて、友達がいて、同僚がいて、上司がいるこの世界で、同じ時を一緒過ごすために。
 働いて、楽しんで、悲しんで、喧嘩して、仲直りして、笑って、生きていくために。
「しんどいだろうが、シャワー浴びるぞ。体中べたべただ」
 <俺>に手を引かれて、ふらつきながらバスルームに移動する。
 オレはなにもせずに<俺>がきれいに洗ってくれて、体を拭かれて、パジャマを着せられ、髪を乾かして、また手を引かれてベッドに入った。
「明日は少し寝坊しよう。朝飯は残り物、昼の弁当はなしだ」
 オレの髪を撫でながら提案した<俺>に頷く。
 明日は少しだけ、このベッドの上の時間を長く。
 それから起きて、着替えて、朝ごはん食べて、会社に行こう。
 そのためにふたりになった。だからふたりなれた。
 この光る世界で、ずっとふたり寄り添って、笑い合って生きていく。
 それがふたりの唯一の願い。
 それ以外のことを、オレたちが願うはずもないのに。
 けれども時として、薄氷の下で口を開ける闇に、オレたちは。
2013.04.22