Appetite ∞
エロ有  克哉=ノマ、<克哉>=眼鏡



 その日の克哉の頭の中は、オムライスのことでいっぱいだった。
 特に何かきっかけがあったわけではなく、始業とともにオムライスが頭に浮かんで、それから無性にオムライスが食べたい欲に駆られてどうしようもなくなった。
 かと言って、じゃあ今日のランチはオムライスだ! という気分ではなく、夕食に自分で作ったオムライスが食べたいというような、自分でもよく分からない情熱に滾っているうちに定刻通り本日の業務が終了した。
 帰宅ラッシュでごった返す電車に揺られながらも考えるのはやはりオムライスのことで、最寄り駅に着く頃には、ケチャップもいいけどオムハヤシでもいいなー……オムハヤシ……オムハヤシにしよう! と路線変更するに至り、いそいそとスーパーに寄り必要な食材を買って、最終的には小走りになりながら自宅マンションに到着した。


「今日はオムハヤシな!」
 相手が今日の夕食が何であるかを承知していることは克哉も承知しているが、あえてわざわざ宣言したいほどに、オムライス、いやオムハヤシへの熱烈な思いは克哉の中で大きく膨れ上がっていた。
 スーツを脱ぎ捨てるように部屋着に着替え、エプロンを着けいよいよ念願のオムハヤシ作りに取り掛かる。
 思いついたのが日曜であれば、さすがに克哉にはフォン・ド・ヴォーからドミグラスソースを作って云々という技術も知識もないにしても、せめて市販のドミグラスソースに手を加え味を調え、赤ワインで煮詰めてどうのこうのする気概もあったが、生憎今日は週中の水曜日で疲労も溜まりつつあり、無念ながら、あの洋食屋さんのハッシュドビーフを再現などとパッケージに書かれた固形ルーに頼ることにした。
 玉ねぎと牛肉を炒め、水とルーを加えて煮込む間に、先日一室の女性社員達に勧められて買ったシリコンスチーマーで温野菜を作るため、冷蔵庫の野菜室を漁っていると、背後に気配を感じる。
「わ、何、びっくりした」
 今さっきまでリビングでソファに凭れぼんやりとテレビを見ていた<克哉>が真後ろに立っていて、思わずどきりとした。
 何、と言われた<克哉>は、何を言うでもなく、ただじっと克哉を見つめている。
「な、に? あ、お腹減ってるよな。もうできるから」
 調理を始めてからまだ十分と少しが経った程度だが、もしかしたら<克哉>はお腹がぺこぺこで、その短い時間も待ちきれないのかもしれないと思って急いで取り出した野菜を切る。何しろ今日の昼は、夕食を存分に味わおうと、企画開発部第三室の主力製品である固形の栄養調整食品二本と、社員食堂に併設されているコーヒーショップのカフェオレ一杯で済ませておいたのだから。
「お昼もうちょっと食べておけばよかったな。ひとりでオムライスだーオムハヤシだーなんて盛り上がっちゃってごめん」
 そう話し掛けても、傍らに立ったままの<克哉>は返事もせず、調理をする克哉の動きをただ見ている。
 何がしたいのかよく分からない<克哉>の態度は気になるものの、まあ話し掛けても無反応だったり無視されたりなんてよくあるしと、軽く溜息をついて調理を続ける。
 卵をふたつずつと牛乳を混ぜオムレツ──というか克哉はいわゆる木の葉型にはできないので玉子焼き──を作り、多めによそったご飯の上に乗せる。本当はもう少し煮詰めたかったが、お待ちかねのご様子の<克哉>に一応気遣いとりあえず完成としたハヤシライスソースをたっぷり掛けたと同時に、電子レンジから温野菜の出来上がりを告げるブザーが鳴った。
「かーんせーい! さ、食べよ!」
 はしゃいで<克哉>にそう言っても、やはり彼は無言で克哉を見るだけだった。


 食事の間も、<克哉>はずっと無言だった。
 業を煮やした克哉が、いい加減にしろよ! さっきから何なんだよ! と爆発しても、まるで耳に入っていないようにじっと見つめながらもぐもぐと玉子とご飯とソースを咀嚼している。
 あれだけ楽しみにしていたオムハヤシも、腹立たしさで味わう気にもなれなくなってくるが、せっかく今日一日胸を焦がしていた相手にこうしてテーブルの上で会えているのだから、向かいに座る不快な半身に怒るのはやめて、食事に集中することにする。
(我ながらよくできてるー。オレって天才ー)
 自画自賛しながら、たっぷり盛り付けた皿を三分の二ほど空けたところで、そういえば<克哉>は帰宅してから一言も発していないんじゃないかということがふと過ぎる。
 見ないようにしていた向かいを上目でちろりと窺うと、<克哉>はいつの間にか完食していて、椅子に背を預けてやはり克哉をじっと見ていた。
 克哉よりは口数の少ない<克哉>は、帰宅してから何も話さないということは結構ある。しかし必ず「ただいま」の一言は欠かしたことはなく、そういう律儀なところは<克哉>の好ましい部分だと克哉は密かに思っている。
 だが今日はそれすらなかったのではないか。今更ながら思い返してみる。
 あまりにもオムハヤシのことで頭がいっぱい過ぎて気付かなかったが、確かに今日は分裂したその瞬間から彼は文字通り一言も発していない。
(うーん、オレがあんまりテンション高いから呆れてるとか? 怒ってる? ……って感じではないか。体調悪い? いやでもご飯完食してるし……)
 考えても考えても、どうして<克哉>がずっと自分を見つめ続けているのか分からない。
 先程までは腹立たしかったその熱視線にも、なんだか段々いたたまれない気持ちになってくる。
 熱い、克哉の全てを焼き尽くすような、奪い尽くすような強く鋭い<克哉>の瞳。見つめ合うと、蕩けてしまいそうな、おかしくなってしまいそうなその静かな淡い色。
「ごっごごごごごちそうさま! でっでしたっ!」
 急に頬に血が集まってきたのをごまかすように無理矢理残りを掻っ込んでお茶で流し込み、空になった互いの食器一式をトレイに乗せ逃げるようにシンクに運ぶ。
 なんだかおかしい。体の奥がむず痒いような、ずきずきと痛むような、そんな予感がする。
 シンクの縁に掴まってひとりではあはあしていると、<克哉>が追いかけてきて背後に立ったので余計息が乱れる。
 そっと振り向くと目が合って、鼓動が相手に聞こえるんじゃないかというくらいどきどきする。
 気まずさを紛らすために何か言わなければと思うのに、何を言えばいいのか頭が回らずなぜか半笑いになる。
「あの、」
「後片付け」
「へっ?」
 <克哉>がやっと朝以来言葉を発する。
「片付け、全部俺がやるから」
「あ、そ、そう? ありが、と」
「だから」
 <克哉>はそう言葉を区切って、延べた右手で克哉の左頬を包み親指の腹でそっと優しく撫で、密度の高い瞳で更にじっと見つめる。
「っ……」
 克哉はもう、このあとに続く言葉がわかっている。この目、この仕草。調理中から抱いてきた違和感と、さっきようやく気付いた予感に答えが出ようとしている。
「先にシャワーを浴びて、よーく、きれいにしておけよ」
「ぁっ……」
 耳元に唇を寄せて、低くわざとうんといやらしく囁かれる。吐息に耳の中を犯されて、体の奥がずくりとした。
 <克哉>の瞳は、ずっとそのことを訴えていた。本当は克哉も最初からわかっていたのに、気付かない振りをしていたのかもしれない。
「わかったな?」
 今度は真正面から、焦点が合うぎりぎりの距離で囁かれた。
 レンズ越しの情熱を宿した瞳と、自分と全く同じ造りなのに、不思議とより端正に見える今は緩く口角が上げられた顔と、自分には出せない低く甘い声。
 そんな目で、そんな顔で、そんな声で。
 そんなふうにされたら、克哉には逆らうことなんてできない。
 ずるい。本当にこの男は、ずるくて意地悪でいやらしい。
 思い通りに蕩かされてぼうっとしながらこくりと素直に頷くと、ずるい男は満足そうににやりと笑った。


 悶々としたまま歯を磨き、往生際悪くバスマットを敷いたり戻したり散々うろうろしてから観念してバスルームに入る。
(食べてすぐお風呂に入ると消化に悪いんだぞっ!)
 そんな精一杯のへなちょこパンチみたいな悪態をつきながら、言われた通りよーくきれいにしている自分の浅ましさにうんざりする。
 なんだか過剰にボディーソープが香っている気がして、より羞恥が増す。
(オレってもうほんとに……)
 なんだかんだで結局はこの甘い誘いを喜んでいる自分もいて、流され易さと堪え性のなさが情けない。
 げんなりしつつバスルームから出ると、早くも片付けを終えたのか、洗面台の前で歯を磨く<克哉>と目が合う。
「あ」
 今更そんな仲ではないし、これからすることを考えればそんなことはなんの意味もないのに、つい股間をタオルで隠してわたわたしてしまう。
 そんな克哉に<克哉>はちらりと視線を寄越しただけで、さっきの熱視線が嘘のようにすぐさま目線を外し鏡の中の自分と睨み合ったまま歯磨きを続行した。
(な、なんだよ……さっきはあんなに見てたくせに)
 どことなく拗ねた気分になった自分を慌てて打ち消して、水気を拭いて下着を着けパジャマを着る。本当はこれもなんの意味がないが、脱がされるのが好きな克哉が無意識にわざわざ着用しているということに、脱がすのが好きな<克哉>だけが気付いている。
 髪の毛を拭きながら今度は克哉が<克哉>をじっと見つめていると、歯磨きを終えた<克哉>が向き直り、克哉に左腕を差し延べて優しく言う。
「おいで」
(うー、ずるいずるいずるい……)
 今ここでそんな萌え言葉を囁くなんて。
 悔しいけれどまんまときゅんとさせられた克哉は、暗示に掛けられたようにふらふらと<克哉>の元に歩み寄る。そのまま腕の中に体を寄せると、ぎゅっと抱きしめられて頭の芯が煮えた。
 けれど<克哉>はそれ以上は何もせず、体を離し鏡と向かい合わせに克哉を立たせ、ドライヤーを取り出しある程度タオルドライさせた髪をきっちり乾かしてくれる。
 こういうことは、克哉より<克哉>のほうが丁寧だ。最大風力で全体にわしわしと熱風を浴びせる克哉と違い、<克哉>はブロック分けをして絡まりを指で解しながらゆっくり風を当てて整える。たまに気まぐれで乾かしてくれることがあって、それが克哉は気持ちよくて好きだ。
 黙々と世話を焼く<克哉>を鏡越しに見つめ、胸がときめく。
 意地悪な半身はなかなか言葉にはしてくれないけど、こうして優しく慈しまれていると、心底愛されていることが切ないくらいに伝わってくる。
 愛しい、好き、愛してる。
 <克哉>は全身全霊で、己の全てを注ぎ込んでいつも克哉を狂わせる。
(オレも……好き、大好きだよ、<俺>)
 たまらなくなって、鏡の中の<克哉>を見つめて心の中で告白すると、聞こえるはずはないのに<克哉>は顔を上げ、克哉と目線を合わせてふっと笑った。
 胸が痛いほど締め付けられて、泣き出してしまいそうだ。
 どうして今日はこんなに甘いんだろう。甘くて甘くて、心がついていけなくて困る。
 髪を乾かし終え、熱の残るそれを指で梳いてやってからドライヤーを片付けた<克哉>が、何もされていないのにもう立っているのがやっとの克哉を後ろからぎゅっと抱きしめ、鏡越しに目を合わせながら耳元にちゅっちゅっと口付け甘く囁く。
「すぐくるから、いい子で待ってろ」
「んっあ……」
 たったそれだけなのに、克哉の口からははっきりとそれと分かる喘ぎ声が漏れる。
 <克哉>は少し力を込めて克哉の体を抱きしめ直してから、名残惜しそうに体を離し、眼鏡を外し服を脱いでバスルームに消えていった。
 残された克哉は、鏡に映る、上気した頬と潤んだ瞳のあからさまに欲情した顔のいやらしい自分が見たくなくて、震える足をなんとか交互に動かし、サニタリーとウォークスルークローゼットを介してひと続きになった寝室へ移動する。

 寝室では、サイドチェストの上に置いてある、満月みたいでかわいいと克哉が気に入って買った円形のフロアランプだけが淡く灯り、ベッドの上は今の時季掛け布団代わりにしている厚手のタオルケットが足元に上げられている。
 なんだか、部屋中がいかにも今からセックスしますという雰囲気に満ちていて、蕩けきった克哉の頭の中を淫靡に掻き回す。
(もおおお、こういうのやめてくれよぉ……)
 普段はいきなりだったり無理矢理だったり屁理屈だったりして強引にセックスに持ち込む<克哉>だが、意外にロマンチックなシチュエーションや甘い雰囲気を作るのも好きだったりする。
 克哉はどうもそれが苦手だ。抵抗する間がない分思考も体もすぐさまどろどろに溶けて、いつもよりも淫らに浅ましく貪欲に相手を求めておかしくなりそうなくらい気持ちよくなってしまうから。
 強引にされたとしても結局はそこに行き着くのだが、だってお前が無理矢理そんなにするからという大義名分が立つから、そのほうがまだいいと思っている。なんの言い訳にもなっていないのは百も承知であったとしても。
(待ってろったって、ど、どこで……ベッドの上? そんなお待ちかねみたいな。いやお待ちかねだけど。……じゃなくて!)
 そんな心底どうでもいいことに悩んでしまって、そこに立ってみたりあそこに座ってみたりしているうちに、<克哉>がバスルームから出た気配がする。
(えっ、ちょっ、どうしよう)
 こっちかあっちかとばたばたしていると、ドライヤーの送風音がしてますます焦る。
 もうここでいい! となぜかパソコンデスクの椅子に座ったところでドライヤーの音が止み、洗面所の明かりが消され<克哉>が寝室に入ってきた。
「何してるんだ」
 椅子の上の克哉を見止めた<克哉>が、思わず眉間に皺を寄せる。
「え、や、……へへ」
 心臓が破裂しそうに高鳴っている。呼吸をするのも苦しい。
 へらっと笑った克哉に、<克哉>は小さく溜息をつくが、すぐに苦笑するような表情に変えて歩み寄ってくる。
 目の前に立った腰にバスタオルを巻いただけの<克哉>の、しなやかな筋肉の付いた引き締まった上半身がやたらにいやらしく見えて、目のやり場に困る。自分と全く同じ体なのに。
「今更緊張するのか」
 セックスなんてもう何百回だってしてるのに、と<克哉>はからかう。
「だ、だって、なんか、お前」
「うん?」
「っ……」
 克哉の脚の間に割り入って、オフィスチェアの左右両方のひじ掛けに手を付き、ゆっくりと顔を近づけて<克哉>が克哉に口付ける。ぐっと体重の掛けられた、デスクとセットで買った安くはないが高くもない椅子がぎっと沈み込む。
 軽く啄むキスを何度も何度も繰り返して、徐々に強く長く唇を吸い上げていく。わざと大きく音を立てて吸われて恥ずかしい。
「んっ」
 柔らかな感触に陶然と開かれた唇の隙間に、舌がぬるりと入ってくる。
 訪問のあいさつでもするかのように舌先をつついてきた<克哉>の舌を、歓迎の意を示すようにつつき返す。そのやり取りがおかしくて、ふたりでくすくす笑いながら深く舌を絡めていく。
 隙間がないようにぴったりと唇を密着させて、角度を変えつつお互いの口腔内でお互いの舌を存分に味わう。きつく吸われれば吸い返してやって、喉奥まで犯されれば同じく突き入れてやる。
 ぴちゃぴちゃと響く水音と、重なる吐息がいやらしくて一層煽られる。先程までの妙な緊張感は、とっくに興奮に上書きされていた。
「んーっ。んっん」
 <克哉>の首に腕を回して髪を掻き乱すと、急いだからか完全には乾いていない僅かに水分を含んだ束が指に絡まる。
 唇を合わせたまま、ふたりの口腔の間を<克哉>の舌が何度も往復して粘膜を擦りあげる。挿入を模した卑猥な動きに、闇に閉ざされた目の前が真っ赤になる。
「っふ、む、んぁ」
 薄く目を開けると、<克哉>も目を開けていて視線がぶつかる。近すぎてはっきりと焦点が合わないが、それでも隔てるレンズのない<克哉>の欲情を濃く湛えた眼差しが、克哉の最後の理性の欠片をひと息に飲み込んでしまった。
「んっん、ぷあっ」
 <克哉>のうなじを爪で掻いて、首をいやいやと振って吸い付く唇と絡まる舌から逃れる。
「どうした」
 ちゅぱっと盛大な音を立てて離された唇を不満に尖らせて、<克哉>が尋ねる。
 克哉は言葉も継げないほど上がった息を必死で鎮め、溢れた欲望を震える吐息で紡ぐ。
「ベッド……」
 恥ずかしそうに切なくかわいく上目で見つめておねだりする克哉に、怪訝に窺っていた<克哉>が苦笑する。
「最初からそこで待っていればいいものを」
 そんなことは分かってはいても、だってだってと無駄な言い訳をする克哉を<克哉>ははいはいと宥めて、手を引き椅子から立ち上がらせてそのまますぐ側のベッドへ縺れ込む。
 克哉の上に<克哉>が覆いかぶさって、身が軋むほどにきつく抱きしめられて苦しい。お返しに同じくぎゅうっと抱きつくと、唇が当たっていた首筋に歯を立てられた。
「ぁ、やっ」
 そのまま舌を這わされ、顎までぞろりと舐め上げられる。
 くすぐったいような痺れるような感触に息を吐き出すために唇が開かれた瞬間、タイミングを合わせたように舌を差し込まれて唇を塞がれた。
「あふっ、ふ、んんっ」
 口内を削ぎ落とすような濃密な口付けが呼吸を奪う。
 息継ぎがうまくできないほどの激しさについていけなくて苦しいのに、もっと激しくもっと苦しくしてほしいとも思っている。
 翻弄する舌も密着された体も押し付けられる腰も全てが焼けるように熱くて、まだキスをしただけなのに何もかもが燃え尽きてしまいそうだ。
「あっ、んっん」
 口付けたまま、パジャマの上から脇腹や胸元をまさぐられ、柔らかい生地の上から硬く尖りきった乳首を指先で緩く弾かれる。
「やぅっ」
 びくんと仰け反った体を体で押さえつけて、両方の尖りを優しく強く爪で引っ掻き指先で潰して擦り合わせて、執拗に責められる。
 薄い布地を挟んだもどかしい感触に腰を揺らめかすと、すでに熱を持った塊を相手の下肢に自然と押しつけることになって、ものすごく恥ずかしいのに痺れるほどに気持ちよくて強く擦り付けてしまう。
「いやらしい」
「やっ」
 唇を付けたままぼそりと詰る言葉が脊髄を貫く。
 擦れたせいで肌蹴た腰のバスタオルを、<克哉>は片手で軽く纏めて枕元に放り投げる。
 いつもは早々に克哉が全裸にされて、<克哉>はせいぜい上を脱いだくらいで涼しい顔をしているのに、今は克哉は乱れてはいるもののきっちりパジャマを着ていて、<克哉>が全裸で上気した肌を晒している。
 それがなんだか新鮮で、このまま着衣で及びたい気もするが、早く<克哉>の熱い肌を直に感じたい気持ちも強くて、欲に塗れたふたつの誘惑が克哉の中でせめぎ合う。
 争いの末勝者となった欲を伝えるため、パジャマの裾から両手を入れて親指で腹筋をやわやわと揉み込んでいた<克哉>の右手首を掴んで、一番上のボタンへ導く。
 克哉の望みを受け止めた<克哉>が、ようやっと唇を離してにっと笑い、お互いの唾液にべたべたに濡れた克哉の唇の周りを丁寧に舐め取ってもう一度軽くキスしてから、頬に、耳朶に、首筋に、鎖骨にとあまねく唇を落し歯を立てながら指をかけたボタンの位置まで辿り着く。
「は……」
 ふつふつとひとつずつボタンを外していくのを追いかけるように、露わになっていく素肌にちゅっちゅと音を立てて吸われ、時折きつく吸って跡を付けられつつ全てのボタンが外された。
 下に視線を落とせば、先程指で捏ねくり回された両の乳首が紅く熟れてぷっちりと立ち上がっていて、刺激を求めて待ち侘びているようで卑猥だ。
 胸元に顔を寄せた<克哉>が、期待に震えるはしたない突起をわざと避けて、その周りをぐるりと舐めて歯を立てる。
「やっ、ちゃんと、してっ」
「なにを?」
 焦らす愛撫に抗議の声を上げると、もう一方も同じく芯を避けて弄んでいる<克哉>が意地悪く聞く。
「うー、やだぁ……」
 <克哉>の意図を察して力無く首を横に振ると、数十分前に優しく乾かしてくれた髪がさらさらと揺れる。
 あんなに柔らかく克哉を見つめていた<克哉>の淡い瞳が、今はぎらぎらと嗜虐に濃く染まっていて、許してはくれないことを否応なしに知らせる。
「どうしてほしいか、言わないとわからないぞ?」
 そんなの十二分にわかっているくせに、どうしても克哉に言葉でおねだりさせたいらしい。
 心の中で、このエロオヤジ! と毒づいて、でも実際に発する声は弱々しく震えてしまう。
「っ、ち、ちくび、もっ、舐めてっ」
「舐めるだけ?」
「うーっ。なめ、て、すって、か、かんっ、でっ」
「よくできました」
「ひあっ!」
 お褒めの言葉と同時に、周りの皮膚まで引き込むようにじゅうっときつく吸われ、強すぎる刺激に克哉の口から悲鳴が上がる。
「あっ、あっ、やぁ、んっ」
 引き攣れるほどに膨らんだそこを、強請った通りに音を立てて吸われ舌で転がされ歯を深く立てられ、もう片方は指で爪先でぐりぐりと捏ねられて、容赦なく苛まれ痛くて痛くて気持ちがいい。
 愛撫を続けながら上目で克哉を窺う<克哉>の額に何度も口付けて、ただただ快感に鳴く。
「んっん、あっ、き、もちい、気持ちいい、よ……」
 うっとりと目を閉じ、よくできた子供を褒めるように、<克哉>の頭を撫で背中をさする。柔らかで豊かな髪と、筋肉の付いた滑らかな肌の感触も気持ちがいい。
「んっ、こっちも……」
「はいはい仰せのままに」
「んーっ」
 指で弄くられているもう片方も口でして欲しいと促すと、その貪欲さに呆れた声を出しつつもちゃんと言う通りにしてくれる。
 いつもなら先程のように散々焦らして克哉が懇願するまでいじめるのに、今日はもう満足したのか、あとはとことん甘やかすことにしたらしい。
 戦慄するほどの濃厚な予感が、克哉の全身を駆け巡る。
「あ、<俺>……」
 たっぷりと乳首を嬲って、紅い跡をそこかしこに散らせながら<克哉>が徐々に下腹へと移動していく。
 克哉のそこははっきりとパジャマのズボンを押し上げていて痛いくらいで、もうすでに下着の中で濡れた感触がしている。
「あっ! だめっ」
 膝裏を掬って大きく脚を開いた<克哉>が、焦らすことなくすぐさまパジャマの上からぱくりと銜え込んだ。
「やっ、だ、だめっ!」
 先端を唇でそっと挟んで、はむはむと柔らかく動かされているだけなのに、もう達してしまいそうだ。
 唇だけでの愛撫を続けながら、器用にズボンが脱がされる。
「こんなにして……一回出すか?」
「んーんっ、んんっ」
 すっかり濡れた下着に舌を押し付けられそう問われるが、ひとりではいやだと激しく首を横に振る。
「でもこれじゃ、辛いだろう?」
 張り詰めたそこにあまり刺激を与えないように、慎重に下着が引き下ろされる。
 やっと窮屈な布から解放されたそれと、替えたばかりなのにぐしょぐしょに濡れた下着が濃い粘液の糸で繋がれ克哉の腿を濡らす。
「や、だ」
「いや?」
「やあっ!」
 腹にひたりと張り付き蜜を零すその先端に、音を立ててきつく吸い付かれ体がのけ反る。
 浮いた腰の隙間にこれ幸いとばかりに腕を差し込まれ、がっちりと固定されてしまった。
「ああっ、あっ、やっ」
 逃れようとじたばたと体をもがくが、腿を肩で押さえられ、腰を腕で掴まれて何の抵抗にもならない。
 滴る先走りを下から上へと舐め取って、源となっている先端の鈴口に舌を捩じ込んでから、がちがちに勃起した塊を<克哉>が口内に収めストロークを開始する。
「あっ! だめっ、だめぇっ!」
 快感を与えるためではなく、ただ絶頂に導くためだけの激しい上下運動に、たまらず<克哉>の髪を掻き乱してむせび泣く。
「あっ、あっ、ああっ、も、もう……」
「んっ」
 克哉の限界を察した<克哉>が、より深くまで銜えて頭を動かしながら、引き攣れて硬くなった双つのしこりを押し付けるように揉み込んで、中指でその下の窄まりをつつく。
「ひっ! あっ、い、いくっ、いくっ……!」
「……っ」
「────っ!!」
 びくびくと体とペニスを跳ねさせ、<克哉>の頭を押さえ付けるようにして口内に欲望を吐き出す。
 次々と溢れる白濁を<克哉>は喉を鳴らして飲み込んで、まだ硬さの残るそれを唇で扱きながら最後の一滴まで残さず啜り取る。
「や、だって、言ったのに……」
 強引に快感の極みに昇らされ、荒い息の余韻のまま拗ねると、<克哉>が意地悪く笑って顔を近づけてくる。
「ふっ」
「ん」
 それを自ら舌を出して迎えると、<克哉>も舌を伸ばして唇を合わせる。
 今自分の放った粘液の独特の味と濃さを感じながら、抱きしめ合って激しく唇を交わす。
 そうすると、僅かに熱のおさまった腰に<克哉>の熱を感じて、また興奮してきてしまう。
「オレも……する」
 口付けの合間に<克哉>の腰を撫でて言うと、眉を上げた<克哉>が唇を離し克哉の頬をひと撫でしてから、どうぞというふうに仰向けになった。


 先程とは逆に<克哉>に覆い被さろうとすると、肩口に手を入れられて、まだ着たままだったパジャマを体に沿わせるように脱がされて、ベッド脇に落とす。
 ぎゅっと抱きしめると、汗ばんだ肌を全身で直に感じて、思わずほっと息をつく。
「好き」
「ああ」
 間近に見つめ合って囁くと、優しく微笑んでこの上なく愛しげに頬を撫でられて、切なくて愛しくて堪らなくて、噛み付くように唇を重ねる。
 しつこいくらいに何度も啄ばんで、舌を絡めて甘く噛んで、また啄ばむ。いくら貪っても全然足りなくて、永遠にキスを繰り返していたくなる。
 でもそうじゃない。キスだけじゃなくて、もっと、もっと。
 長い口付けを解いて、そのまま頬に唇を移す。好き、好きとうわ言のように囁いて、顔中にキスの雨を降らす。
 柔らかな耳朶を食んで、首筋に歯を立てて、シャツで隠れる部分に跡を残す。
 胸元まで下ると、なんとなく克哉のそれとは色も大きさも違う気のする突起に舌を這わす。
 克哉はここをいじられると、痺れるほどに気持ちがよくてすぐにあられもなく乱れてしまうが、<克哉>はどうなのか分からない。たまに責めてみても、ただじっと克哉の愛撫を受け入れているだけだ。
 分からないが、克哉と<克哉>は結局は同じ体なのだから、きっと<克哉>もここは気持ちがいいはずだ。
「んっ」
 少しでも自分と同じく感じてほしくて、いつも<克哉>がしてくれるように懸命に奉仕していると、<克哉>が僅かに甘い鼻声を漏らす。
 感じてくれたことが嬉しくて、乳飲み子のようにちゅっちゅっと吸い付いて上目で窺うと、<克哉>は苦笑して克哉の頬を軽くつねった。
 なんだかおかしくて、乳首を含んだままふふっと笑うと、その刺激の変化に<克哉>が息を飲む。
 濃く色づいて硬く尖りきった突起に満足して、筋肉を舌でなぞり臍をくすぐり腰骨に吸い付く。
 眼前にある下腹に張り付く塊にごくりと喉を鳴らして、その場では触れずにさらに唇を下げていく。
 真っ直ぐに伸びた長い脚を辿り、踵を持ち上げ足先に口付けると、克哉の確固たるパーソナリティである被虐心が疼いた。
 半身の足元に平伏し、爪先に口付け、苛まれて虐げられ激しく揺さぶられる。何もかも奪い尽くす凶暴なセックスに、細胞のひとつひとつまでが満たされる。
 そんな時もあれば、今のように、穏やかに優しく、全てを包み込んでひたすらに愛情だけを与える甘いセックスにどろどろに蕩けることもある。
 体を重ねて欲望を混ぜ合わせられるなら、酷くされても甘やかされても、結局はどうだっていいのかもしれない。
 はぁっと大きく息を吐いて、<克哉>の脚の間に這い上がって顔を伏せる。大きく張り詰めたものに震える両の手を伸ばしそっと包むと、その硬さと熱さに眩暈がした。
 自分のものと全く同じそれも、愛しい男のものだと思うと、全身の血が沸騰しているのではないかというほどに興奮する。
「ん」
 先端から僅かに染み出してきている雫を絡めて両手で茎を軽く扱きながら、膨らんでつるりとした頭の部分に口付ける。感触を味わうように唇を押し付けて、張り出した笠の縁を舌でなぞる。
 十分に勃起していると思ったそれが、さらに力を増したのが分かってどきどきする。
 裏側の根元から舌をちろちろと動かしながら舐め上げ、側面も同じようにして刺激すると、<克哉>が溜息のような息を漏らした。 
 笠の段差までを銜えてはむはむと唇を動かすと、小孔から滴る粘液が喉に落ちる。それをいやらしく音を立てて啜って、もっともっととねだるように半ばまで銜え込んでゆっくり往復する。
「んう」
 舌と唇で挟んで何度か往復させたあと、一度離して、左の側面の括れの部分を集中的に責める。ここは、お互い一番弱いところだ。
 たっぷりと唾液を絡ませ舌全体で強く擦って、きつく吸い上げる。気持ちよくさせたくて、一番いいところを必死で奉仕する。
「んっ、く……」
 堪らず<克哉>が甘い声を出す。嬉しい。もっともっともっと、オレで気持ちよくなってほしい。
 もう一度、今度は銜えられるところまで深く銜え込んで、激しく上下させる。
「んっ、ん、んむ」
 顎を伝う唾液を気にすることもなく、夢中で頭を振り立てながら頭上を見やると、<克哉>はいつの間にか両肘を付き少し身を起こしていて、口いっぱいに屹立を頬張る克哉をすぐ近くで見つめていた。
 快感に僅かに顔を歪め、口の端を上げた<克哉>の目に映る、男のものに貪欲にむしゃぶりつく自分の姿に途端に羞恥が襲うが、それも克哉にとっては興奮を煽る材料にしかならない。
「きもちい?」
 先端を銜えたまま上目で聞くと、ペニスがぴくりと震えて<克哉>が優しく頭を撫でてくれる。
 見つめ合って小さく微笑み合って、愛しくて狂ってしまいそうだ。
 小刻みに口付け浮き出た血管をなぞりながら根元まで下りて、陰嚢を含んで緩く吸う。同時に太い茎を激しく扱くと、溢れた粘液と擦れてねちねちと水音が響く。
 根元から先端まで一気に舐め上げ、舌をしっかり絡ませて横銜えに扱く。散々に舐めて吸って扱き上げると、<克哉>のペニスはこれ以上ないくらいに怒張して、根元の皮膚が引きつれ限界が近いことが知れる。
「ん、ぐっ、んー」
「っ、いい、ぞ、<オレ>」
 えずきそうになるのを耐えて、唇を窄め喉奥まで引き込んで嚥下するように動かすと、<克哉>が片方の手を伸ばし克哉の髪をかき乱す。
 卑猥な音を立てて激しく頭を動かすと、口内に一層濃い苦味が広がる。
「飲みたい?」
 荒い息の合間の問いに、懸命に目で訴える。
 <克哉>はきちんと分かってくれて、ふっと笑って克哉の頭を何度も何度も撫でた。
「んっんっん」
 早くこの口中に、欲望の証が欲しい。ふたつに別れた半身が放つ粘液を飲み込んで、身の内で混ぜ合せて自分のものにしたい。淫猥で穢らわしい願いを自ら叶えるために、必死で追い詰める。
「っ、出すぞ」
「んっ」
 克哉の頭を押さえていた<克哉>の手を取って、指を絡めてぎゅっと握る。
 喉奥にぐっと押し込んでから、素早く頭を引いて括れの部分まで唇で扱き上げた瞬間、ペニスが大きく震えて、不規則にびくびくと跳ね上がりながら勢いよく克哉の口内に白濁を撒き散らす。
「うっ、あ……」
「んー」
 舌の上に止めどなく射出される粘液をうっとりと受け止めて、ひとしきり落ち着いたところでわざと大きく喉を鳴らして飲み干す。口内を満たす濃い精臭と、喉を伝う粘度の高い液体の感触にぞくりとする。
 滴る最後の一滴まで全て吸い取って、それでもまだ完全に萎えきらないそれから名残惜しく唇を離す。
「ん、おいしい……」
 <克哉>の腿に頭を凭れ、無意識に陶然と呟くと、<克哉>が満足そうににやりと笑った。
 身を起こした<克哉>に腕を引かれ、<克哉>の腿の上に跨がって向かい合わせできつく抱きしめ合う。
 喉まで伝った唾液のあとを舌でなぞられて、唇を塞がれる。
 ペニスを舐めしゃぶっていたのと同じ動きで舌を絡ませ、唾液を分け合う。
「んっんっ、んんっ」
「っふ」
 口付けながら、奉仕の間にすっかり立ち上がった自身を<克哉>の腹筋に訴えるように擦り付けると、唇を交わす水音とは別の水音が重なって響き渡る。
 腰の動きに合わせるように、<克哉>の手が腰骨の辺りを掴んで軽く揺さぶる。そのまま引き締まった柔らかな双丘に手をずらして、両手でゆっくり揉みしだかれる。
 <克哉>がやりやすいように、膝をついて少し体を浮かせると、力を入れてぐにぐにと揉んでくる。
「んっ、んっ」
 長く節張った指が狭間に滑り込んできて、その奥で息づく窄まりを指先でつつかれる。
「んっ」
「濡らさなくても、もうぐちゃぐちゃだな」
「っ、言うなっ」
 先端からだらだらと溢れる先走りが、下まで滴って蕾を濡らしているのは克哉も感触で分かっていたが、言葉にされると無性に恥ずかしい。
 くすくす楽しそうに笑った<克哉>が、その蜜を指で掬って、解さなくてもすでにふっくらと柔らかく盛り上がった蕾の縁にたっぷりなすり付ける。
「んーっ」
 ぬめる狭い入り口を中指の先で数度押して、ぐっと力を入れてその中に入り込んでくる。
「あっ、あ」
 襞を引っ掻くように前後させて、すぐ二本目の指が入ってくる。中指と薬指で音を立てて掻き交ぜて、奥まで突っ込んでくすぐる。
 熱を持ってじんじんとしていた内壁を宥めるようにさらに煽るように掻き回されて、気持ちがよすぎて何も考えられない。
「ああっ、あっあ」
 取れてしまいそうにぷちんと立ち上がった乳首をきつく吸われて転がされて、中も外も、全身が快楽の海にどっぷりと浸かる。
「んっあ、もっと、もっとして」
 胸元の<克哉>の頭を押さえつけて、腰を激しく動かして淫らにねだる。このまま指だけで達してしまいそうだと思っていたら、なぜか<克哉>が唐突に指を引き抜いてしまった。
「やだぁ……」
 無情な<克哉>を泣きそうな目で睨むと、<克哉>は物ともせずにやっと笑った。
「なんで……」
「ちょっと待て」
 まあまあというように、克哉の体を引き上げて膝立ちにさせる。蜜を零す克哉の猛ったものを緩く扱いて、さらに指を濡らす。
「な、に」
 <克哉>の意図が分からず困惑していると、たっぷりと濡れた指先を、中途半端に放られて物欲しげにひくつく窄まりに正面から一気に突き入れられた。
「ああっ!」
 ぐりぐりと捏ねられて、激しく出し入れされる。擦り立てられる粘膜が、卑猥な音を立てて歓喜に震える。
「あっあっ、あっ、いいっ!」
 出し入れに合わせて腰を振って、揺れる屹立を自ら慰めるために手を伸ばそうとすると、<克哉>の手に制止された。
「だめ」
「んんっ?」
「掴まって」
「ふ……」
 <克哉>は克哉の右側に少し体をずらすと、右腕を肩に回させ、左手も肩に付かせた。不安げに<克哉>を見つめると、大丈夫、と囁かれた。
 入れたままの指を何かを探るように動かされて、もしかして、と思うと同時に、最も敏感な一点を容易く見つけられて、指先を強く押し込まれる。
「ひっ!」
 こりこりと硬くなったそこを揉み解すように捏ねて、リズミカルに押し上げる。
「ああああっ! そこっ、いやあっ」
 そこへの刺激と連動して、ペニスがびくびくと震える。狂暴な快感が脊髄を責めて、脳天に昇って頭が真っ白になる。
 目の前がちかちかして、<克哉>にしがみ付いて狂ったように嬌声を上げる。
「だめっ、だめっ、っだめぇっ!」
 だめと言っても当然やめてくれるわけはないし、ここで本当にやめられたら克哉も堪らない。
 ぐちゅぐちゅと激しく音を立てて、無遠慮に引っ掻かれる。
「あああっ、あっ、やだぁっ」
 もう膝を立たせていられなくて座り込みそうになると、<克哉>の腕が力強く克哉の腰を支える。その引き寄せた腕の熱さにまで、痺れるほどに感じてしまう。
 体内のほんの小さな一点からもたらされる強烈な快楽に、全身の神経が犯される。
 足元から何かが這い上がってきて、責め立てられる内壁も全身も、不規則に痙攣する。恐ろしいまでの絶頂の予感が、克哉を容赦なく飲み込んでいく。
「ああっ、いっちゃう、いっちゃう」
「いけよ」
「やああっ」
 真っ赤に腫れ上がった乳首をじゅうっと吸われて、指先が襞をぐりっと抉った瞬間。
「ひあっ──あああああっ!!」
 頭の中で激しく火花が散って、体中を快感に噛み付かれて克哉が達する。全身が何度もびくびくと跳ねるが、猛ったペニスはそのままだ。触れられず射精を伴わない絶頂に、<克哉>の指が食い千切られそうに締め付けられる。
「あ、は、はぁっ」
 自分の体を支えていられなくて、<克哉>にぐったりとのしかかって荒く息をつく。頭がぼんやりしてくらくらする。掴まった肩に爪が食い込んで深く跡をつけいているが、克哉はそんなことには気付かないし、<克哉>は全く気にしない。
「やうっ」
 何度も収縮を繰り返す肉襞をたっぷり味わってから、<克哉>の指が抜かれる。まだ落ち着かない体は、その感触にもひどく反応してしまう。
 <克哉>の上に克哉を座らせて、先程と同じく向かい合わせに抱きしめられてこめかみに何度も口付けられる。
「あっあ、やっ、さわ、ないでっ」
 濃厚に達した直後の敏感すぎる肌をまさぐられ、変わらずどくどくと脈打つ猛りを互いの体の間に挟まれて、おかしくなりそうだ。
 鎮められない快感に泣いて震える克哉を宥めるように、<克哉>の手が優しく頭を撫でて、顔中にそっとそっと口付けが繰り返される。
「ん、ん」
 慈しむためだけの接触に、体内を荒れ狂う大波が、心地好い穏やかなさざ波に姿を変える。
 背中をゆっくりと撫でて、ぎゅっと抱きしめられる。頬をくっつけてすり寄ると、また頭を撫でてくれる。
 狂暴な快楽とは全く違う静かな快感に、体中が蕩けていく。
 啄ばむキスを何度か交わして、額を付けて見つめ合うと、ほっとする。淡い瞳に見つめられて、胸がきゅんとして息苦しいくらいだ。
「好き、好き、だいすき」
「ん」
 愛しくてどうしようもなくて、舌を伸ばして唇を合わせると、せっかくおさまった熱があっという間に血を沸き立たせる。
 舌を絡ませながら、少し力をなくしていた互いのペニスを扱き合うと、すぐにがちがちに張り詰めていく。
 もう片方の手で<克哉>が克哉の尻房を揉んで、柔らかく溶けたままのその中心に指を入れて掻き交ぜる。
「んっう、んっ」
 自然と<克哉>のものを扱く動きが早くなる。先端を親指でくじって蜜を溢れさすと、<克哉>にも同じことをされて、体内の指をぐるりと大きく回された。
「あっ、だめ、も……これ、欲しい……」
 唇を離して熱っぽくねだると、<克哉>が動きを止めて小さく笑う。
「入れたい?」
「んっんっ、いれ、たい」
「じゃあ自分で」
「うん……」
 すんなりと許しを得たことが嬉しくて、思わず笑みが零れる。
 ちゅっちゅっと口付けてから引き抜かれた指にぴくりと小さく震え、膝立ちになって<克哉>のものをさらに何度か擦ってから、その先端を十分に解されて蕩けた入り口に合わせる。
「んあっ」
 <克哉>の肩を支えにぐっぐっと押し付けて、力を抜いて腰を落とすと、一番太い頭の部分がぐぷんと一気に入ってくる。
 だがそこから先へ進められなくて震えていると、励ますように<克哉>が何度も腰を優しく撫でてくれる。
「んっ……んーっ!」
 <克哉>にしがみ付いて思い切って腰を落として、太い茎の根元まで全てが克哉の中に飲み込まれた。
 大きいもので体の中がいっぱいになって、染み出るような快感に無意識に内壁がひくついてしまう。
「あー。お前、締めすぎだ……」
「あ、やっ」
 きつく抱きしめられてしみじみと呟かれる。その声の振動も、克哉にとっては大きな刺激だ。
「あ、あ、まだ、だめ」
「ん」
 受け入れることだけで精いっぱいの克哉が、ゆるゆると揺すって動き出そうとする<克哉>の背を掻いて慌てて止める。
 息をついて、暫し静かに抱き合う。甘く唇を吸って、見つめ合って髪を撫でる。気持ちよくてつい口元が緩む。
 ペニスを体内の奥深くまで銜え込んでいる卑猥な状況とは思えないほどまったりとした気分に、うっとりと息を漏らす。
「は……いい?」
「ああ」
 ちゅっと口付けて、ゆっくりと腰を動かし始める。
 熱くて硬いものが狭い内側を押し広げて、腰を引くと空いた空間を嫌がって粘膜が収縮する。狭まったそこをまた押し広げて進む塊を、逃がさないように襞が吸い付く。
 敏感になりすぎた内壁が、克哉の体内の様子をはっきりと伝えてきて怖いくらいだ。
「あ、んっ」
 気持ちがよすぎて、これ以上自分で動けないと<克哉>に目で訴えると、頷いた<克哉>がちゅっと口付けたあと、克哉を後ろ手に付かせて腰を強く掴んで力強く揺さぶって突き入れる。
「あんっ、あっ、あっあ、すご……い」
 巧みな緩急で刺激されて、翻弄されるままに甘ったるい声しか出ない。
 根元までぴったりと埋めた状態で、<克哉>がぐるりと腰を回す。
「んやっ、それ、だめっ」
「これ好きだろ?」
「やっ、あっ」
 硬いペニス全体で肉襞を捏ねられて、太い先端が一番奥をごりごりと刺激して気が狂う。
「んっ」
 引き寄せられて、開きっぱなしで啼き声をひっきりなしに漏らす口を塞がれて貪られる。入り込んできた舌に夢中で吸い付く。
「んっ、んう、んん」
 上から下から、粘膜の擦れ合ういやらしい水音が響いて、興奮しきった克哉をさらに煽る。
 暫く抜き差しを味わって、ふいにぴたりと腰の動きを止めて、耳の中に舌を捩じ込まれた。
「やっ、あんっ」
 くちゅくちゅと直接脳内に響く音と<克哉>の荒い熱い吐息に、全身に鳥肌が立つほど感じる。
 ぞくぞくと体を震わせていると、耳を責めたまま尖った乳首を指でぐりぐりと捏ねられて、ひっと息を呑む。
「だめ、だめ、変、なる……」
「ん、中、すごい。びくびくして……」
「んあっ」
 吐息を注ぐようにいやらしいことを囁かれて、それだけで達してしまいそうだ。
 <克哉>が克哉の背を抱えながらそのまま押し倒して、シーツの上で重なり合って強く抱き合う。
 両手の指を互いにしっかり絡ませて握って、もう何度目か分らない口付けを熱く交わす。
「んっ、んん」
 どちらかともなく自然に腰が動いて、律動が再開される。
 脚を<克哉>の腰にがっちりと絡ませ、克哉が激しく腰を振る。動きやすくなった<克哉>も、克哉の動きに合わせて角度と深さを変えながら抽送を繰り返す。
「んっ、やっ、きもちい、きもちいいよぉ……」
 手をぎゅうっと握り合って、真正面で見つめ合って熱を絡ませると、愛しくて愛しくて涙が溢れて止まらない。
「すきっ、<俺>、好き、んっ、すき」
 克哉の目尻からこめかみに伝う涙を舐め取って、軽く唇を啄ばんだ<克哉>が、体を離して抜けてしまうぎりぎりまで腰を引く。
「あっ、やだっ、行かないで」
 咄嗟に中をぎゅっと締めた克哉に、思わずうっと呻いた<克哉>が苦笑する。
「大丈夫。よくしてやるだけだ」
「ん、ん」
 そう言われて、握った指を解いて両手首を下側にぐっと引かれる。掴んだ手首を支えにして、<克哉>が入口付近だけで出し入れさせて、克哉の腹側に内壁を押し上げるように突き入れる。
 何度か角度を変えて突かれた一瞬、張り出した笠の部分が、先程指で散々に責められた一点をぐりっと擦った。
「ひっ、ああ、やぁっ!」
 見つけられたそこを、笠の縁が容赦なく擦る。時々突き上げられて、克哉の陰嚢がたぷんとかわいく揺れるのが<克哉>の目にいい。
「やだ、やだ、あ、ああっ」
 指の刺激とは全く違う肉茎での責めに、先程よりもあられもなく乱れてしまう。
 ふと目が合った<克哉>が、欲に塗れたぎらぎらした瞳で克哉をじっと見つめていて、雄々しい笑みを湛えたその顔に魅入られて目が離せなくなる。
「や、いっく、また、いっ……」
 体中をぞくぞくしたものが駆け巡る。擦り上げる<克哉>をぎゅうぎゅうと締め付けて、克哉も<克哉>も同じく快感に包まれる。
「くっ、いいぞ。いけ」
「ひぅっ! いっ……やあああっ!」
 掴んだ手首を強く引かれ、ぐんっと突き上げられて、克哉がまた快楽の頂点に昇る。やはりペニスは変わらず勃起したままで、再度放出のない解放を迎えたことが知れる。
「うっ……」
 あまりの強い締め付けに、絞り取られそうになった<克哉>が堪らずペニスを引き抜く。
「あ、あ、は」
 びくびくと長く震える体を、<克哉>が労わるようにそっと撫でる。痙攣が落ち着いてから手を伸ばすと、覆い被さってきて強く抱きしめ合う。
 すり寄り合って唇と重ねると、際限を忘れた欲望の波がまた押し寄せて、互いに腰が動く。
「俺も、一回……」
「んっ、きてっ」
 克哉に散々快感を与えた<克哉>もいい加減に限界らしく、切羽詰まった声で呟かれて、克哉から腰を突き出す。
 性急に挿入されて激しく出し入れされて、乱暴なまでに抉られて、熱い粘膜同士が擦れて焼け爛れそうだ。
「ああっ! あっ、すごい、いいっ」
「くっ」
「気持ちいい? 気持ちいい?」
「っ、ああ、気持いい」
 堪らない、というように顔を歪めて頭を振った<克哉>に子供のように尋ねると、頬を撫でて切なげに答えてくれて、嬉しくて頬の手に手を重ねて微笑む。淫靡な笑みを目の当たりにして、<克哉>がごくんと喉を鳴らした。
 体を引き寄せ唇を合わせて腰をひっきりなしに動かすと、体の奥底に蓄えられた熱がふつふつと湧き上がるのが感じられる。
「あっ、あっ、も、出して、い?」
「ん、一緒に」
「うん、うん」
 腿を押さえて大きく脚を広げさせられて、一層スピードを早め激しく抽送させる。肌がぶつかる音がするほど腰を打ち付けられて、喉を見せてただ喘ぐことしかできない。
 腰の筋肉がぎゅうっとせり上がって、<克哉>を銜え込んだ部分から腹部までの皮膚が引き攣れる。
「あ、出る、出る、いくっ」
「<オレ>っ」
「はっ、ああああっ!」
 最奥を深く抉られて、押し出されるように克哉の先端から精が溢れる。触れられずに射出したそれは、飛び散ることなく反り返った腹の上でだらだらと白濁を零れさす。
「うぁっ、く……」
 達する直前に克哉から素早く引き抜いた<克哉>も、克哉の位置に合わせて射精するが、勢いよく迸ったいくらかの飛沫が克哉の胸元に散る。
「やっ」
 ぴくぴくと震える互いのペニスを擦り合わせて、放出の余韻に浸る。射精のない絶頂とはまた違う、気怠い解放感をじんわり味わう。
 克哉の腹を濡らすふたりの粘液を<克哉>が指先で混ぜ合わせ、掬い取って克哉の口元に運ぶ。
「んう、んっ」
 それを素直に舌を出して迎え、こくんと飲み干して白濁に汚れた指を丁寧にしゃぶる。
 きれいに舐め取った指を離され、まだ荒い息をぼんやりと整えていると、枕元に放られたままだったバスタオルで、残った粘液を<克哉>が拭き取ってしまった。
「あ、タオ、や」
「俺が洗うから」
 タオルで拭かれると、洗う時に行為を思い出して恥ずかしいからいやだ。たまにプレイの一環としてわざとやられるが、今日はそのつもりはないらしい。
 汚れた部分を包んで、バスタオルを今度は床に放り投げる。
 汗ばんだ髪を掻き上げた<克哉>が、また克哉に覆い被さってぎゅっと抱きしめる。互いに深く息をついて、見つめ合って何度も唇を啄ばむ。
「ん、中……」
 外に出したことを拗ねると、<克哉>がふっと笑う。
「だめ。今日は何曜日だった?」
「だって」
 分かってはいるが、これだけ甘く抱かれて、最後の最後に肩透かしを食らってすっきりしない。
 淫乱め、と笑われて、ますます拗ねた唇をまた何度も何度も啄ばまれる。
 徐々に深いキスになって、体をまさぐり合うと、あれだけ激しく体を交わした直後にも関わらず、消化しきれないもやもやしたものが体内で疼く。
 どうやら半身も同じらしく、互いに苦笑し合って口付けを解く。
「じゃあ……もう一回」
「あっ、<俺>……」
 首筋に吸い付いた<克哉>が、克哉の股間に手を伸ばして、くったりとした肉を優しく握り込んで揉みしだく。
 あっさり力を取り戻したそれを激しく擦って、胸元に顔を伏せこちらも立ち上がった突起にちゅうっと吸い付く。
「あっ、あ、ん」
 完全に勃起させてから、まだ乾かずに蕩けて綻んでいる蕾に指を差し入れて、情事の名残で熱く熟れた肉襞をたっぷり引っ掻く。
「あうっ、や、そん、掻き回さな、で」
「んー? 中はまだまだ欲しがってるぞ」
「バ、カ」
 オヤジくさい言い方に、ぺしっと頭をはたくと、お返しに耳朶にがぶっと噛み付かれた。
 指を三本も入れられて掻き回されて身悶えていると、鎖骨を食んでいる<克哉>が喘ぐ声を上げた。
「ちょっと、だめだ。入れるぞ」
「ん、オレも、欲しい」
 余裕なく言われて、嬉しくてぞくぞくする。
「後ろ」
「ん」
 四つん這いになって、顔を枕に落として腰を高く突き上げる。恥ずかしい部分を余すことなくじっくり視姦されて、羞恥に苛まれて気持ちいい。
 もう先走りにぬめる先端をなすり付けて、谷間で何度かぬるぬると往復する。
「あっ、あっ」
 柔らかな粘膜に<克哉>の硬さを感じて、それだけで喘ぎ声が漏れる。
「んーっ!」
 つんつんとつつかれて、一気に根元まで突き入れられる。間を置かずにすぐに抽送が開始されて、一方的な揺さぶりに付いていけない。
「やっ、まっ」
「だめ、待てない」
 熱っぽく掠れた声に、中をぎゅっと締め付けてしまう。
 音を立てて激しく出し入れしながら、克哉の尻房がぐいっと左右に割られる。引き伸ばされてより敏感になった粘膜が、擦り上げる<克哉>の屹立の形の細部までを感じ取る。
「こんなに銜えて……」
「あん、あ、やっ」
 手が前に回されて、雫の滲むそれを出し入れのリズムに合わせて激しく扱かれる。
「だめっ! ん、それ、さわっ」
 <克哉>の手を離そうと手を伸ばしても、快感で力の入らない抵抗では<克哉>はびくともしない。
「ん、ん、んあっ、出ちゃ、から、だめっ」
「まったく……」
 必死で訴えると、呆れた声を出した<克哉>が手を離してくれる。
 奥まで入れた状態で抽送をいったん止め、腰を回して捏ね合わせて、克哉が堪らなくなる律動を味わわせる。
「ん、は、はぁ」
 腰を落としてベッドにうつ伏せになった上に、<克哉>がのしかかってくる。そのまま横向きに体位を変えて、片足を抱えられて抽送が再開される。
「やっ、やっ、い、いいっ」
「ふ、どっちだ」
「ん、いいっ」
 からかう言葉に律儀に答えて、枕にしがみ付いて快感に鳴く。
 肩を引かれて、腰は横たえたままで、体を捩じって上半身は仰向けにさせられる。克哉の横に手を付いた<克哉>の顔が目の前にあって、思わず頬に手を伸ばすと、親指をぱくんと銜えられた。
「あっあっあっ、いい、いい」
「いい顔して」
「ん、すご、きもちい」
 とろとろに蕩けてぼんやり呟くと、<克哉>が優しく微笑んで頭を撫でる。
 一瞬だけ抜いて、正常位にまた体位を変えて、突き入れる。膝裏を掬って押し付けられて、深く深く繋がる。
 正面で見つめ合って、力強く穿たれる。快感と愛しさがごちゃ混ぜになって、わけが分からない。
「<俺>っ、<俺>っ、だいすき、だいすきっ」
「ああ、俺も、だ」
「んっ」
 抱き合って、口付けて舌を絡ませる。息がうまく継げなくて苦しいが、そんなことより唾液を交わして舌を吸って唇を甘噛みするほうが大事だ。
 髪を掻き乱し、頬を撫で、肩に背に爪を立てる。せわしなく触れ合っても全然足りない気がして、互いの体を掻き毟る。
 がむしゃらに突き入れられて揺さぶられて、快感なのか恐怖なのか分からないものが身の内で暴れる。
「あああっ、も、だめっ。やっ、出ちゃ」
「俺も、もう……」
「あっ、中、欲し」
「ああ、奥に……」
「うんっ」
 折れるほどに強く抱きしめて、唇を合わせて極限まで腰を激しく振る。
 体の間に挟まれたペニスが圧迫されて擦れて、強烈な射精感が克哉を弾き飛ばす。
「んーっ、んん、んんんんーっ!」
「んんっ」
 がつんと凶暴に奥底に叩きつけられて、舌をじゅうっと吸い込まれた瞬間、克哉の先端から勢いよく粘液が噴き出す。幾ばくかはふたりの体の間の合間を縫って、喉元にまで達した。
 克哉が達するのとほぼ同時に、きつく引き絞られた<克哉>も克哉の中で達する。体内でどくどくと注がれる粘液の熱さと震えるペニスの感触に、小刻みに収縮を繰り返す襞が喜びに沸き立つ。
 達したあとも暫く体と唇は離さず、愛情を交換し合う。
「んっ、むあっ」
 あれだけ貪っても飽きることなくまだ貪り続ける唇がやっと離れて、自身の放った精液に塗れた萎えたものが抜かれる。最奥で放ったせいですぐには溢れてこなくて、きっとあとで丁寧に掻き出されるんだと思った自分に克哉がひとりで顔を赤くする。
「あ……」
 <克哉>がサイドチェストの上のティッシュを数枚取って、汚れた互いの腹部とペニスをきれいに拭き取るのを、呼吸を整えながらじっと見つめる。
 後処理し終わった<克哉>が、優しく笑ってまたのしかかってくる。その背をぎゅっと抱いて、ほうっと息をつく。
 見つめ合って、頬を撫で合って、髪を撫で合う。甘く唇を吸い合って、うっとりする。
 全ての欲に満たされて心底満足そうな顔をしている<克哉>が、克哉の耳元に唇を寄せて、滅多に言わない五文字を甘く甘く囁いた。
2012.05.04/2012.06.03