ハッピー・ハッピー・クリスマス2 ☆
エロ有
去年の様子*→ 超ろまんてっくに眼鏡が超絶ヘタレ!!




 今年は超ろまんてっくなクリスマスにする。<俺>は言った。
 去年のクリスマスだって、オレとしては十分ロマンチックだったけど、<俺>に言わせれば詰めが甘かったらしい。
 そして今年のクリスマス。実のところ、今年はイブもクリスマスも平日だから、パーティーは二十三日のうちに済ませてしまった。
 去年えぐくて断念した、チキンの丸焼きを今年はなんの抵抗もなく調理できた。もうオレはなんでも捌ける気がする。
 パンも生地から捏ねて焼いて、シャンパンで乾杯。一緒に作った料理とモンブランで満腹になったあとは、買い増した大きなツリーと去年買ったツリーのイルミネーションを寄り添ってうっとり見て、それからベッドで……まあ、超ろまんてっくなクリスマスは、十分達成できたと思う。
 だから今日のクリスマスイブは、昨日残しておいたチキンとモンブランを食べて、またベッドで……で、明日の二十五日も残ってるけど、とりあえず今年の楽しいクリスマスは一段落だと思っていた。けど。
 超ろまんてっくにする。元よりロマンチストな半身の計画は、こんなことで終わるわけがなかった。


「はあ。幸せ」
 輝くツリーのイルミネーション。寄せた体。時折交わすキス。そしたら口から出る言葉は、ただひと言しかない。
「満足か?」
「うん、すごく。ありがとう、<俺>」
 お礼のキスなんて、普段は恥ずかしくてなかなかできないけど、この甘い空気の中なら当たり前みたいにできる。
「よかった」
 <俺>からもお返しのキス。
 触れるキスは、だんだん激しくなってきて、それからそのまま……と思ったら。
「待って」
「え?」
 <俺>はちょっと困ったように笑って、額をこつんとぶつける。
「もう少し、待って」
「……うん……」
 実はさっきから、<俺>はなんだかそわそわしていた。昨日十分クリスマスは堪能したけど、日付的に今日のほうが気持ちは盛り上がるから、それで浮ついてるのかなと思ってたんだけど。
「ち、違う曲でも、かけるか」
 今日のために、クリスマスソングオルゴールコレクションみたいなCDを買って、昨日も今日も食事の時からずっとかけっぱなしにしている。雰囲気作りの重要な一環を担っている優しい旋律は、今は有名なクリスマスの讃美歌を奏でている。
「この曲、好きじゃないのか?」
「いや……うん」
 どっちだ。
 なんか、なんかおかしい。昨日は別になんともなかった。今日だって、さっきまでは普通だったのに。
 さっきって、いつからだっけ? えっと、帰ってきて、ご飯食べて、モンブラン食べて、ソファーでいちゃつい……くっついて。うーん、分かんないな。さっき。とにかくさっきから。
「あー、シャンパン、もう一回飲むか」
「……いいよ、明日も仕事だし」
「……そうだな」
「……」
「……」
 なんだこれ。せっかくのいい雰囲気に、ちょっとおかしな空気が混じってきた。
 様子がおかしいとオレが思ってることに<俺>も気付いてるっぽいけど、なんのフォローもない。ただごまかすように、オレの髪をやたらに優しく撫でたり、過剰にすり寄ったりしてる。
 なあ<俺>。明日も仕事なんだ。明日も仕事だから、働くためには睡眠を取らなきゃだめだろ? 睡眠を取るってことは、寝なきゃいけないんだ。だから、いつまでも起きてはいられないんだ。だから。だから。なあ。
「<俺>……」
 はしたないって、分かってる。浅ましいって、分かってる。だけど、ロマンチックに演出された限られたクリスマスイブを、これ以上朝に近づけたくないんだ。
「っ、<オレ>っ……」
 目の前の首筋に吸い付いて、<俺>の下腹に手を伸ばす。そしたら、<俺>は絶対応えてくれるはずだったのに。
「お、れ……」
「あ……」
 強い力で、伸ばした手を押し戻されて体を離された。予想もしていなかった反応に、オレは呆然となる。
「なん、で」
「いや、違う。ごめん、悪い、違うんだ。ごめん」
「……いやなのか?」
「違う。そんなわけない。そんなわけないけど、でも、もう少し、待ってくれ」
「なんで」
「いや……」
 はっきりしない<俺>に、少し腹が立った。
「こんな、急にわけ分かんないよ。待てって、拒否されて、なんで」
「拒否じゃない。違う。俺だってもちろん、お前と。違うんだ。ごめん。ごめん」
 ぎゅっと抱きしめられた。
 なんなんだろう。待ってくれって、ごめんって、どうして<俺>はそんなこと言うんだろう。
 いい雰囲気だったのに、なんでこんな気持ちにならなきゃいけないんだ。
「どうしたんだよ。なんかあった? 言わなきゃ分かんないよ。オレはどうすればいいんだ?」
「うん。ごめん。ほんと、駄目だな。ごめん。やっぱり詰めが甘い」
 <俺>はもう泣きそうな声で、オレを抱きしめる腕も少し震えてる。
 いつも自信たっぷりな<俺>が、泣きそうで、震えてる。驚きと不安で、湧き出た怒りは一気にどこかへ消えていった。
「<俺>? なんかあった? オレ、いやなことしたか?」
「違う。違う。お前は何も。俺が」
「<俺>」
 こんなに落ち込む<俺>なんて、見たことない。なにか<俺>なりの事情があるのは分かっているのに、一時でも腹を立てたオレ自身に腹が立つ。
 顔を覗き込むように額と額をくっつけると、<俺>は苦しげな顔でオレを見つめる。
 なんて顔してるんだよ、お前。
「ごめんな、きつく言った。ごめん」
「お前が謝るな。俺だ。俺のせいで、せっかくの」
 頬を撫でて、お互いごめんごめんと繰り返す。
 ロマンチストの<俺>が計画したロマンチックなクリスマス。つい何分か前には完璧だったそれは、一体どうしてこうなったんだろう。そう思っていると。
 ピンポーン。
 来客を告げるチャイムの音が、スピーカーから流れるオルゴールの音と一瞬混じった。
 そんなに遅い時間じゃないけど、来客があるような時間でもない。一体誰だろう。
「きた」
「え?」
「<オレ>」
「え? え? <俺>?」
 きたって、誰が。なにが。疑問を聞く間もなく、<俺>はオレの手を引いてインターホンに駆け寄る。受話器を取る前、わけも分からず後ろをついてきたオレに振り向き苦く笑った。
「ごめん、<オレ>。もう少しだ」
「<俺>?」
 <俺>はこの時を待ってた。それは分かったけど。
 誰がきたのかと<俺>の肩越しに見たインターホンの画面に映っていたのは、猫の絵柄がついた帽子を被った宅配便のお兄さん。
 宅配? なにか届け物? <俺>はそれを、待ってた?
「はい。はい、どうぞ」
 オートロックを解除して受話器を置き、<俺>はまた振り返る。
 苦しいくらいに強く抱きしめられたけど、まだ状況が分からないからただ棒立ちしてしまう。
「ごめん。プレゼントを、買ったんだ」
「……プレゼント?」
「ああ。今日、夜届くように。時間指定して、買っておいた」
「プレゼント」
「うん。言えばよかったんだ。プレゼント届くからそれまで待ってくれって。サプライズにしたくて、言っちゃ駄目だって、そればっかり思って。せめて、届け物があるからってひと言だけでも言っておけば。今気付いた。馬鹿だ。ごめん」
 時間指定でも、さすがに何時何分までは細かく指定はできない。だから<俺>は、いつくるかいつくるかとそわそわしてた。だからもう少し待てって。オレをびっくりさせたくて、どうしたのかも言わないで、待てって。
「ごめん」
 クリスマスのプレゼントは、去年と同じく欲しい物もないしお互いなにも買わなかった。はずだったけど。
「いつの間に」
「注文は先月のうちに……」
 ピンポーン。
 <俺>の説明はまだ全然聞いてないけど、エントランスから部屋まで上がってきた宅配のお兄さんが玄関のチャイムを鳴らす。
 話を中断して、玄関の扉を開けた瞬間、オレの体が<俺>とひとつになる。何度体験しても不思議な感覚。<俺>の後ろ姿を映していた視界が、なんの間もなく一瞬で爽やかな笑顔を見せるお兄さんの顔に変わる。
「ご苦労様でした」
 扉を閉めれば、目の前にはまた<俺>の後頭部。仕組みの欠片も分からないオレたちの体。
 受け取ったのは小さな箱。それを片手に持って、もう片方でオレの手を握って、リビングに戻りソファーに座る。
「いつ。どこで。なにを」
 混乱してるせいで単語しか出てこなくて、情報伝達の基本みたいな聞きかたになった。
「先月ネットで注文してた。お前最近俺に信頼あるから、ちょっと利用した。そこもある意味ごめん」
 <俺>はうっかり目を離すと、すぐにネットで高い物をほいほい買っていた。でもオレが節制節約と口うるさく言っていたのと、節約生活にも慣れたおかげか、勝手に高い物を買ってオレが怒ることもあんまりなくなっていた。
 だから厳しい監視もしなくなったし、ある程度好きにさせておいてた。
「受注メールとかからばれたらどうしようかと冷や冷やしてたが、幸い俺のほうが先にチェックできてたからな。今日まで秘密にできてた。それなのに」
 困った顔で笑う<俺>に、両手をぎゅっと握られる。
「秘密にしたいからって、驚かせたいからって、お前にいやな思いさせたらなんの意味もない。サプライズなんてただの自己満足なのに。ごめん」
 仕事でも家でも、緻密に計算された<俺>の計画はいつだって完璧。例え正確な時間が読めない配達というネックがあったって、それも当然織り込み済みだったはず。
 けど想定外で対応できなかったのは、オレがちょっと、盛り上がりすぎて堪え性がなさすぎたこと。
 つまり、<俺>の計画を壊したのはオレだ。
 オレはなんてことを。
「そんな、オレのほうがごめん。お前が待てって言ってるんだから、少しくらい待てばよかったのに。なんか……みっともなく」
「違う違う。俺が。もっとうまく時間調整することはできたんだ。そのつもりだった。いつくるか正確には分からないし、くるまでうまく場を繋げるつもりで。でも」
 <俺>の頬が少し赤くなった。
「時間が近付くにつれて、なんか、ちょっと……緊張、してきて」
「……緊張?」
「……ああ」
 そんな言葉、未だかつて<俺>の口から聞いたことがない。
 <俺>が緊張? <俺>って、緊張できたのか?
「シミュレーションは、散々したんだ。届くまではこうで、渡す時はこうでとか。でもなんかこう、いざ本番かと思ったら、ほんと、やたら心臓はばくばくするし、それで全部飛んだっていうか、なんか、ほんと」
 しどろもどろで、恥ずかしそうに、ぽつぽつと。<俺>の口調とは思えない。
 この<俺>が、あの<俺>が、練りに練ったプランが飛ぶほど緊張するもの。
 この箱の中には、一体なにが入ってるんだ?
「ごめん」
「もう謝るなよ。お前はオレを思ってしてくれたんだから。それなのに、怒ってごめん」
「違う、俺が」
「<俺>」
 抱きしめて、よしよしと頭を撫でる。
「いっぱい考えてくれて、ありがとう」
「<オレ>」
 <俺>がまた泣きそうな声を出す。滅多に見ない弱気な<俺>。こうさせたのはオレ。<俺>に酷いことしたのに。それなのに、オレの心の中は。
「こんなこと言うの、厚かましいんだけどさ、オレ今すごく嬉しい」
「……嬉しい?」
「うん、嬉しい」
 精一杯笑って見せると、<俺>はまだ眉を寄せながらも、少しだけほっとした顔をした。
 オレを思って、たくさん考えてくれた。計画して、実行して、楽しませてくれた。すごくいいクリスマスを過ごさせてくれた。
 <俺>がオレのためにしてくれたこと。全部嬉しい。
「オレ、どうすればいいのかな。お前はオレのためにいっぱいしてくれたのに、オレはなんにもしてないどころか、台無しにさせちゃった」
「だからちが」
 同じことを繰り返そうとする<俺>の唇を、オレの唇で塞いだ。
「違うも、もういいから」
「<オレ>……」
 もう一度そっとキスをして、抱きしめ直す。
「どうしよう。どうすればいい?」
 <俺>はオレの腕の中でしばらく考え込むように沈黙してから、だったら、と切り出した。
「これを、受け取ってくれ」
 <俺>が体を離して、膝の上に乗せていた届いた箱を差し出す。
 受け取ってくれって、そんなの。
「え、だって、プレゼントなんだろ、これ。受け取るのなんか当たり前だよ。そんなことでいいわけ」
「そんなことで、いいんだ」
 オレの言葉を遮って、<俺>が強く言う。
 さっきから見せる困った笑顔が、オレの胸の奥をきゅっと掴んだ。
「受け取るだけでいい。いや……そうだな。受け取って、できれば笑顔を見せてほしい。それでいい」
 戸惑って、目をぱちくりさせるオレに、<俺>は視線でいいだろ? と問う。
「う、うん、分かった。お前がくれるんだもん、もちろん受け取るし、笑顔なんていくらでも」
「そうか。ありがとう、<オレ>」
「うん」
 よく分からないけど、とりあえず頷いてみる。<俺>はよかったと言って、がさがさと箱の包装紙を開く。開いた中はやっぱり箱だったけど、なんの印刷もない白い無機質な四角い箱で、中身の想像もつかない。
 その白い箱を開ける前に、<俺>は一度深呼吸する。
「もっと、とびきりかっこよく、ロマンチックに渡すはずだったんだけどな」
「うん……?」
「こんなになるとは。情けない」
 自嘲しながら、白い箱を開ける。中には小さな円筒状のクッション材が詰まってて、その中からさらにシート状のクッション材で巻かれた小さなものを、<俺>は丁寧に取り出した。
「過剰梱包」
 そう言って笑って、外したクッション材から出てきたのは。
「え……」
 角度によって、シャンパン色の光沢も見える白い小さな箱。いくらオレが鈍感でも、見ただけで中身がなにか分かる、独特のその形。
 まさか、そんな。
「受け取ってくれるか? <オレ>」
 <俺>は緊張した顔をしてそう言って、恭しく箱を開けた。
 なにが起こっているのか、分からない。頭の中が真っ白で、なにが、なにやら。
 眩しい。とにかくもう、目が眩しくて眩しくて仕方ない。
 小さな箱の中で、寄り添うようにふたつ並んだ小さな小さな輝きが、世界中を照らしてるくらいに眩しくて。
「<オレ>」
「あ……」
 目を見開いて、ぽかんと口を開けて固まるオレの頬を、<俺>の手がそっと包む。
 はっとして見上げると、<俺>はやっぱり困った顔で笑った。
「勝手にこんなことして、ごめん。怒ったかもしれないが」
「おおお? おこ? な、そん、怒る、わけ」
「怒ってない?」
「怒るわけ、怒るわけないだろ。怒るわけない」
「そうか。よかった」
 心底ほっとした顔。
 計画が飛ぶほど緊張して、泣きそうなくらい落ち込んで、眉を下げてほっとして。
 もうずっと一緒にいるのに、今まで見たことのなかった<俺>が、<俺>の中にまだこんなに隠されていたんだ。
「いろいろ、台詞とかも考えてたんだけどな。なんかもう、どうでもいい。いらない。お前が受け取ってくれたら、それでいい」
「<俺>……」
 目の前の出来事を、やっとしっかり認識してきた。
 <俺>がこっそり用意していたクリスマスプレゼント。予想もしていなかったサプライズ。
 信じられない。夢みたい。でも夢じゃない。<俺>がくれた現実。
「<俺>」
 箱を乗せたてのひらを両手で支えるように握って、<俺>を呼ぶ。
 <俺>に言いたいこと、伝えたいことはたくさんあるのに、胸が詰まって言葉が出てこない。
「<俺>、<俺>」
「うん、<オレ>」
「<俺>」
「<オレ>」
 変な呼び名だと思う。お互いに、『おれ』なんて。
 でも、<俺>はオレで、オレは<俺>だから、これでいいんだ。
「<俺>」
 合わせた唇を離して、<俺>を見つめる。<俺>はもう泣きそうでも、困った顔でもなく優しく微笑んでいたけど、まだどこか緊張しているのが伝わってくる。
 こんな状況でこんなことを思うのは<俺>に悪いけど、不安が見える上目遣いの瞳が、かわいいって思った。
「付けて、くれるか?」
「もちろん」
 息を飲んだあと、打って変わって凛々しく答えた<俺>は、箱の中から銀色のリングを取り出す。
 箱から出されてさらに光り輝く眩しさが目に沁みて、まぶたがじんと熱くなった。
「手を」
「うん」
 差し出した左手はかすかに震えてて、手を取った<俺>の手も、かすかに震えていた。
「よく、こんなことやれる」
「うん」
 <俺>の独り言みたいな呟きに、オレも頷く。ほんと、こんなことみんなよくできる。
 なんてことない動作。手を出して、手を取って、指にするりと。それだけなのに、ものすごく緊張する。
 <俺>だって緊張するんだから、オレなんてもっとに決まってる。
 いい年齢になった男ふたりが、震える手で向かい合う。もしかしたらバカバカしい図なのかもしれない。
 でも、今日のこの日、今のオレたちは、神聖で厳かな、あたたかく大きななにかに優しく包まれているような気がした。
「ありがとう、<俺>」
「俺こそ、受け取ってくれて」
「そんなの、当たり前だって、言っただろ?」
 左手の薬指が、ずっしり重い。
 <俺>のオレへの想いと、オレに委ねた<俺>の命。その誓いが形になって、一本の指からオレの命に結び付く。とてつもなくすごいことだ。
「お前も」
「俺は、いい」
 箱からもうひとつの指輪を取ろうとしたら、慌てて箱を後ろに隠された。
「なに言って」
「いい」
 目を合わせないで、そっぽを向いて言う。
「ここまでやって今更照れるか?」
「いい」
「もう」
「あっ」
 無理矢理ふんだくって、鼻息荒く箱に差し込まれた指輪を抜くと、<俺>はあーあという顔をした。
「手」
「……はい」
 なんでか偉そうに促して、観念した<俺>が差し出した手を取ったはいいけど。
「なにこれ、すごい、ばくばく」
「だろ」
「うん」
 耳元で脈の打つ音がする。心臓が胸を突き破って体の外に出そうでこわい。
 ほんとみんな、<俺>も、よくできた。
 瞬きするのも忘れるくらい集中して、ゆっくりゆっくり滑らせ無事<俺>の薬指に指輪が嵌まる。
 無意識に左手と左手を甲を上に並べれば、同じデザインの同じ指輪が、同じ形の同じ指で誇らしげに煌めく。
 こんなにきれいなものを、オレは今まで見たことがない。
「っ、<俺>っ」
 いろんな思いが混ざり合った熱い塊が、体の奥で一気に沸騰して、熱くて、苦しくて、耐えられなくて<俺>に飛びかかるようにしがみつく。
 ぶつかったオレの体を、<俺>はしっかり受け止めた。
「い、いつの間に、サイズなんか」
「お前が寝てる間に測ったんだ」
 ふざけて言ったことを、<俺>もふざけて返してくれる。
 そんなくだらないことなら浮かぶのに、大切な言葉は、もっといい言い回しとか、もっと伝わる表現とか、あらゆる単語を考えすぎて、ごちゃごちゃのぐちゃぐちゃで全然まとまらない。
 ただ明確に思うのは、<俺>ってすごいということ。さすが<俺>。よくよく分かってるけど改めて。大混雑の頭の中で、格別大きな太字で、<俺>はすごいってテロップが繰り返し流れてる。
「ほんとは、オーダーメイドとかで、もっと凝りたかったとこなんだけどな」
「ううん、これでいい。これがいい。シンプルで、きれいで、オレ好き。いい」
「うん。どうしようか迷ってた時にこれ見つけて、こう、響くものがあったっていうか、気に入ったから」
「うん、響く。うん。すごくいい。これがいいよ」
「うん。よかった」
 この世にひとつしかないものでも、いくつもあるものでも、お前がオレのために、オレたちふたりのために選んでくれたものなら、それがかけがえのない唯一。
 だからこれ以上のものなんて、世界中どこを探したって在りはしない。
「<俺>」
「うん」
「ありがとう」
「いや」
「愛してるよ」
「ああ。俺も、愛してる」
 キスしたい。そう思って、唇を近付けると。
「待って」
「え」
 <俺>に止められて、ちょっとどきっとした。
「ああごめん。そうじゃなくて」
 向き直って、鼻先の付く距離で見つめる。
「さっき、言ったこと」
「うん?」
「どうしてほしいって、俺が言ったか」
「あ……」
 オレはどうすればいい? その問いに、お前がオレに求めたもの。お前にあげられるなら、なんだって。
「<俺>、ありがとう。愛してる」
 どうしても耐えきれなくて、零れた涙に頬は濡れていたけど、<俺>が望むようにちゃんと笑えているのかどうか。それは、目尻を薄く濡らした<俺>の嬉しそうな顔を見ればすぐに分かった。
「愛してる、<オレ>」
「<俺>」
 毎日何度も交わすキスすら緊張する。
 初めて想いを交わしたあの時から、オレの全ては<俺>に捧げられていたけれど、聖なる夜に渡し合った証に見守られた宣言は、どんな朝よりどんな夜より深くて強い、特別な誓いになった。
 唇を触れただけの、長い長い静かなキスを解いた時、新しいオレたちの始まりを告げる音が耳の奥で聞こえた。
 気のせいじゃない。本当に、今この時から、今までとはなにかが違うふたりが始まったんだ。
「愛してる」
「愛してる」
 真新しい言葉を唱えて、<俺>はオレの零れた涙を、オレは<俺>の滲んだ涙を、お互いに頬を包んだ親指で拭って額を付けて笑い合う。
 幸せで、幸せで、こわいくらいに幸せで、<俺>もきっと、同じように感じてくれてるって思った。
「でもまあ、外に付けてくわけにはいかないし、家だけで付けるってのもなんだし、正直付ける機会はもうないと思うが」
「いやあ、オレはたまに付けてにやにやするし」
「ふっ。そうか」
 左手を掲げて表裏させるオレに、<俺>はくくっと喉で笑って、首元にすり寄って懐く。シニカルで甘ったれな、いつもの<俺>っぽさが戻ってきた。
 悲しいことがあったとか、とんでもない失敗をしたわけでもない限り、しょんぼりした<俺>もかわいいからたまにはいいんだけどな。
「怒られたらどうしようかと」
「だから、なんで怒るんだって」
「勝手に高い物買ったから」
 言われて気付いた。
 でも、それとこれとは、それとこれで、仕方ないし、嬉しいし、幸せだし、気持ちの問題だし。
 幸せはお金で買えないし……って、指輪を買って幸せなら、幸せはお金で買えるのか?
 いやそれは時と場合によるから。うん。
「そんなの……気に、しなくていい、よ」
「こう言うのもなんだが、そんなにはしないぞ。俺の感覚では」
「いいよ、別に。そんな、いいよ」
「そうか」
「う、うん。うん」
「よかった」
 心配が全て消えて完全にほっとしたのか、凭れた<俺>は長く息を吐いた。
 先月注文したって、いつ頃だろう。超ろまんてっくにするって言ってた時には、もう決めてたのかな。そもそもいつから計画してたのか。
 今年のクリスマスは指輪を渡そうと企画して、オレにばれないように慎重に検討して、ようやく実施まで漕ぎ着けたのに最後の最後に頓挫して。
 このかんの<俺>の心の動きを思うと、<俺>が愛おしくなるのと同時に申し訳なさもまた湧いてくるけど、オレがまた謝ったら<俺>が気にするし、心の中の謝罪にとどめておく。
「結局、超ろまんてっくとは言えなくて……」
 <俺>も同じことを思ったらしく、最後に言おうとした言葉はすんでのところで飲み込まれた。
「なに言ってるんだよ。これが超ろまんてっくじゃないっていうなら、世の中で繰り広げられてるロマンチックは全部茶番になっちゃうよ」
「そうか?」
「うん。これ以上ないくらい、ロマンチックなクリスマスだよ」
「……そうか。よかった」
 <俺>はさっきから、何回「そうか、よかった」って言っただろう。
 心配させてごめんな。台無しにしてごめんな。そんなにオレを想ってくれて、ありがとう。
「愛してるよ、<俺>。いっぱい、ありがとう」
「うん。よかった」
 また言った。ほんと、かわいくて愛しい、オレの<俺>。どうしたらいいんだ。
「じゃあ、さ」
 肌も、息も、待たされて焦れて、熱くて仕方ない。
 それはオレも<俺>も同じ。密着した全身が、お互いの熱を伝えてさらに熱くなる。
「こんなにいいプレゼント貰ったあとじゃ、霞んじゃうんだけどさ」
 クリスマスの朝に見つけるプレゼント。けど、それじゃもう、オレたちには遅いから。
 朝がくる前に、早く。
「オレもお前に、プレゼントを贈りたいんだけど……受け取ってくれる?」
 お前が喜んでくれますように。気に入ってくれますように。
 お前に、心を込めた贈り物を。
「こんなすごいプレゼントを貰えるなんて、なんて嬉しいサプライズだ」
 <俺>はそう言ってにやりと笑って、広げた両腕で力強く受け取った『プレゼント』に、深くて甘い、蕩けるようなキスをした。


 毎日毎晩いくらしても足りないキスは、今夜は尚更。一秒だって、一ミリだって、唇を離したくない。
「ん、んんっ」
 <俺>の全身あらゆるところを触りたくて、<俺>に触ってほしいけど、そうするとキスを解かなくちゃいけないから、代わりに強く抱きしめて、手の伸びる範囲を忙しなく撫で回す。
 もうこのまま欲しい。このまま繋がりたい。なんの準備もしてないけど、そんなことどうでもいい。
 思いの外肉付きのいい<俺>のお尻を揉んで、密着した腰を突き上げるように何度か動かすと、意味することに気付いた<俺>が丸く開いた目でいいのかと伺ってくる。
 いいから、してるのに。
 焦れったくて、ぺちんとお尻を叩いて睨む。<俺>ははいはいって感じで目を細めて笑った。
 キスはしたまま体の位置をうまく合わせて、<俺>の先端が入口をつつく。少しでも慣らすように表面だけを往復して擦ってくるけど、そんな気遣いなんていいから。
 腰に絡めた脚に力を入れて訴えると、口の中で<俺>がなにやら呟いた。もごもごしててよく分からないけど、多分、この淫乱って言った。
「ん、ふあ、あーっ……」
 固い中は<俺>もさすがに痛みを感じるらしく、熱い塊がゆっくり慎重に進んでくる。
 思わず離してしまった唇を<俺>は塞いでこないで、代わりに優しく頭を撫でてくれる。
 脈打つ痛みで足の先が痺れるけど、<俺>がオレの中にいて、ひとつに繋がってる幸せが、痛みも快感に変えて全身に沁みる。
「大丈夫か?」
「ん、だいじょぶ」
 きっとオレの体は、最初から<俺>を受け入れられるようにできてる。
 ずっと<俺>との出会いを待ってて、毎晩体を重ねられるように、望む時にはすぐに迎えられるように、そういう作りになってるんだ。
 だから慣らさなくても、ちょっと痛くても、こんなに深く、ひとつになれる。
「もっと、プレゼント、堪能したいのに」
「すれば、いい、だろ?」
 馴染んで動かせるようになった中を意識して締めると、短く呻いて気の抜けたため息をついたのがかわいい。
「そうじゃなくて、もっと、全身舐め回して、食べて、味わって、焦らして、にやけて」
「バカ」
 オヤジくさい言い方がおかしくて、笑って軽くキスすると、よしきたとばかりに顔中キス攻撃される。くすぐったくて余計おかしくて、声を出して笑う。
「食べる」
 今度はがぶがぶ甘噛みしてくるから、ますます笑いが止まらない。
 そうやって遊んでるうちに体の中は完全に蕩けきって、<俺>に張り付く粘膜が呼吸してるみたいに動いてるのが分かる。
 お腹の奥が熱くて、疼いて、どうにかなりそう。
「なあ……」
 オレを食べてる<俺>の耳元で、オレなりに目一杯、頑張っていやらしく囁く。
「もっと、いっぱいして?」
 中の<俺>が、返事するみたいにぴくんって動いた。
「はいはい。俺の大事な淫乱様」
 嬉しそうにからかってキスをしてから、<俺>がそっと腰を引く。一番太いところに粘膜が引っかかる感触にぞくぞくする。
「んー、あっ」
 ほとんど抜けるくらいまで引かれても、すぐにまた奥までいっぱいになって、段々とスピードを上げて粘膜同士が激しく擦れ合う。
 銜えた縁が焼き切れそうに熱い。
「あっ、ん、ふあっ、いいっ、いいっ」
 出し入れするたび<俺>のはさらに硬くなって、痛みの欠片もなくなって気持ちいいだけの中をもっともっと気持ちよくしてくれる。
 こんなに気持ちよくされたら死んじゃうんじゃないかといつも思うけど、今のところは無事生きてるから大丈夫なのかな。
「んー……」
 首元に顔を埋めた<俺>も、気持ちよさそうな声を出した。顔が見たくて頬を撫でると、ちゃんと気付いた<俺>が顔を上げる。
 思った以上に、気持ちよくてたまらないって蕩けた顔をしてて、うわーかわいいって叫びそうになった。
「気持ちいい?」
「ん……」
 とろんと答えて、頬を包んだてのひらにすり寄ってくる。
 もう。かわいこぶって、かわいくて、ずるい。
 いっぱいよくしてくれる<俺>のいい顔がもっと見たいから、腰を突き出すようにせり上げてオレから腰を動かす。
 <俺>の弱いところを意識してきつく締めると、眉を寄せた切ない顔をした。
「っ、<オレ>、いい」
 かわいい。今日は特段<俺>がかわいく見える。
 愛しい。かわいい。どうしよう。<俺>への想いで、オレは破裂してしまうかもしれない。
「もっと、よくしてやるな?」
 寂しいけど一旦体を離して、体勢を上下入れ替える。
 <俺>に覆い被さってしばらく濃厚にキスを交わしてから体を起こして、熱く滾ったままの<俺>を何度か扱く。反りすぎて掴みにくいくらいのその切っ先に、ゆっくり腰を落としていく。
「んーっ」
 あっさり根元まで飲み込んだ<俺>の感触を、目を閉じて味わう。
 オレが上になると、一番奥までよく届いて、反り返る<俺>の角度が計算したみたいに気持ちいいとこにちょうど当たるから、恥ずかしいけどすごく気持ちいい。
 今夜のオレはプレゼントで、<俺>が堪能したいと言うなら、恥ずかしいとか気にしない。脚を大きく広げて、繋がったとこも、オレのも全部見せつけると、跳ねた<俺>のが内側からお腹を叩いて息を飲んだ。
「いい、やらしい、エロい」
「んっ、んっ」
 荒い息でオレの腿を撫でて、ぎらつく目をして舌舐めずりするお前のほうがよっぽどいやらしいのに。
「ふっあ」
 動きたいのをちゃんと我慢して待ついい子の期待に添うべく、立てた足と付いた手に力を入れて腰を前後させる。
 捏ねて、絞って、<俺>が気持ちのいいように。
「あー、いい、気持ちいい、<オレ>」
「うん、うん」
 他のことなんて考えられない。気持ちよくて、気持ちよくて、とにかく夢中で腰を振る。
 繋がったとこを中心に、体の芯が痺れてる。痺れは胸元まで伝わって、尖った突起がじんじん痒くてたまらなくて、後ろ手に付いた片方の手を伸ばして自分で慰める。
 大きく脚を広げて<俺>に跨がって腰を振って、胸を摘んで引っ掻いて弄る。恥ずかしい。恥ずかしいけど、恥ずかしいからより気持ちいいなんて、オレって。
 快感で震える体は、片手だけじゃ支えられない。動きにくくてつい疎かになった腰を、<俺>は指先が食い込むほどに強く掴んで、立てた膝で背中を支えたついでに下から乱暴に突き上げてきた。
「ああっ! やっやっ、だめ、あっ、そんな、だめっ」
「堪能、して、いいんだろ?」
「あああっ!」
 そんなにされたら弾けそうになるのに、まだ許さないと絶妙な力加減で責められる。
 ここをこれくらいしたらこうなって、こうしたらこうなるって、オレの全部が<俺>に完璧に把握されてコントロールされる。
 もっとオレを操ればいい。好きに扱えばいい。支配されてるいうことに、どうしようもなく満たされる。
 突かれる振動は、まだ一度も触れられてないオレのも間接的に刺激して、張り詰めすぎて痛い。
 これも自分で触りたいけど、これは<俺>のだから。<俺>が許可しないなら、勝手に触っちゃいけない。
 中をいっぱいに擦って、前を触っちゃだめってことは、<俺>がなにをしたいか、自ずと知れる。
「んあ、ん、ん」
 少し前のめりになるように促されて、両手をついて<俺>に近付く。ぎらつく男の顔がすぐそこにあって、見つめられるだけでも声が出るほど感じてしまう。
 お尻を鷲掴みに持ち上げられて、角度調整しやすくなった体勢で浅いところで出し入れされる。
「ひあっ、あっ、あっ、やあっ」
 神様はどんな意図があって、体内のこんなとこにこんな器官を設計したんだろう。押されただけで全身に電気が走るポイントを、狙いすました硬いものが的確に抉る。
 中がぎゅうっと締まって、十分に立ち上がってた前がお腹に付くくらい力を増した。
「それだめ、だめ、だめ」
 口ではそう言うものの、体は勝手にそこに当たるように合わせて腰をくねらせてしまう。
 <俺>のいいようにって思ってたのも忘れて、自分の快感のためにいやらしく動く。
「ほんっと、ド淫乱」
 楽しそうに詰る<俺>の声が、遠くに聞こえる。
 だって、そこだめなんだ。そこすごい。出し入れで擦られるだけでもくらくらするのに、集中して責められたら、おかしくなってただ乱れるしかなくなる。
「んんんっ、んあっ、あ、や、だめっ」
 脊髄がびりびりする。その刺激で頭の中が弾けて、てっぺんから飛んでいく。
 とてつもない量の快感に、体がついていけない。
 まぶたの裏は暗いのに、焼き付くくらい白く眩しい。
「やあ、や、やだ、いく、いっちゃう、いく」
「ああ。いいとこ見せろ」
「<俺>、<俺>」
 必死で開けた目に、唇の端を上げた<俺>が映った。
「ひ──っ!!」
 小さな死という表現を、大学時代バレー部仲間の猥談で聞いたことがある。にやける仲間にどう返していいか分からなくて笑ってごまかした言葉に、今なら実体験をもって深く頷ける。
 ここを責められて、出さないでいく時の感覚は、悦楽だけじゃなくて少しの恐怖を伴う。得体の知れないものに手が届く恐怖。
 でもそれが<俺>の顔をしてるなら、オレは躊躇わずその手を取るんだろう。
「はあっ、ん、ん」
 体が激しく痙攣して止まらない。倒れ込んで密着した<俺>の肌の感触も、今の状態じゃ刺激が強くて怖い。
 上向いたままのオレのがお互いの体に挟まれて、悲鳴を上げそうになった。
「んーもう、中すっごい……」
「んあ、や」
 髪の毛にすり寄られて、余韻の抜けない体が小さく跳ねる。
 たまに耐え切れなくて<俺>も達することもあるけど、今回はなんとか我慢したみたいだ。
「なあ、俺も」
 中の<俺>がひくんと動く。
 おねだりの声がかわいくて、自然と頬が緩んだ。顔を上げて、<俺>を見つめて微笑む。
「いいよ。好きにして?」
「ん」
「ふあっ!」
 今度は奥深くまで。一番気持ちよくなれる所に一緒に行くために。
 もっと、いいようにして。お前が最高の気分になれるように、オレをめちゃくちゃに、好きに扱って。壊してもいいから。
 お前のためだけのオレにして。
「ん、いく」
「ん、ん」
 きつく抱きしめて、深くキスをして。体中が<俺>でいっぱいで幸せだ。
「んー、んー、んーっ!」
「んんっ」
 さっきとは別の上昇感が全身を襲う。
 中の<俺>のと、腹筋に挟まれたオレのが同時に同じ動きで震えて、熱く迸る。
 一緒に昇って、体の中に残さず注がれる充足は、なににも代えられない。
 達したあとで息苦しいのにキスを解けなくて、いつまで経っても荒い呼吸が整わない。酸欠状態でくらくらし始めたところで、やっと唇が離れた。
「苦しい」
「うん。苦しい」
 ふたりで笑って、オレの頬を包んだ<俺>の手を握って見つめ合う。
 そこでやっと、指に嵌めたままだった硬質な感触に気付いて、そういえばと思い出した。
 あんなに感動したのに、今の今まで正直意識がいってなかった。
 <俺>の指輪をなぞると、<俺>は『あ』って顔をしてオレの左手を見た。どうやら企画者すら忘れてたみたいだ。
 ふたりして苦笑に肩を揺らせてキスをする。
 心の込められた大切なものだけど、目の前に本人がいるんだから仕方ないか。
 忘れてたお詫びに指輪にもキスしあって、また見つめ合う。
「愛してる」
「うん。オレも、愛してる」
 優しく微笑んで見つめる<俺>の瞳には燃える熱があって、<俺>を見つめるオレの目にも、同じ熱が揺らめいているはず。
 だって、まだまだ。
「こんないいもの貰ったら、俺のプレゼントなんかじゃ見合わないじゃないか」
 わざとらしく困った声で言って、甘い唇が触れる。
「まさか。まだまだ、オレのプレゼントのほうが、足りないだろ?」
 きゅっと締めると、力を戻し始めてた<俺>が、あっという間に中をいっぱいに満たす。
 そう、まだまだ。お前がくれた贈り物に、オレの贈り物を。
 もっと、たっぷり、堪能して。
 ロマンチックなクリスマスは、まだこれからだから。
2013.12.30