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エロ有  克哉=眼鏡、<克哉>=ノマ



 佐伯克哉、二十五歳。
 端正な面差し、透けるような白い滑らかな肌、色素の薄い柔らかな髪、すらりと伸びた長い手足、ほどよく鍛えた均整の取れた体、甘い声。
 真面目で、仕事熱心で、頼もしく、いつも優しく穏やかでありながら、時にクールでどこかミステリアスな雰囲気。
 大企業の花形部署に所属し、同僚、上司はもちろん、上層部からもその将来を嘱望されている優秀な人材。
 女性社員、一部男性社員やはたまた通りすがりのどこかの誰かからも、数多の熱い視線を送られる超一級品。
 今日も変わらず熱視線をそのしなやかな体に纏いつつ、僅かに憂い気な眼差しでレンズ越しにパソコン画面と向き合っている、慕情の的の彼。
 ──やだ、今日もかっこいい。見て、あの熱心な顔。新規プロジェクトの構想でも練ってるのよ。すてき。
 ──いつにも増してなんかやたら色っぽくない?すてき。かっこいい。
 そんなすてきでかっこいい彼が、真剣な顔で何を熱心に考えているかと言えば。
(あー、やりたい)
 これは克哉にとっては何をおいても最も重大で重要なプロジェクトで、その構想の間には、思わず見惚れるほどに真剣な面持ちになるのも無理はない。
(今日はじっくりやりたい。ゆうべは激しかったからな。今日はゆっくりと……)
「佐伯さーん」
「はい」
「この前の改善案の件、どうなりましたー?」
「ああ、それなら……」
(時間かけて、とろとろにして、それから……あー、だめだ。やりたい)
「佐伯くん」
「はい」
「先日提出してもらった企画書だが、プレゼンまで進めて構わないから、来週までに準備しておいてくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
(おい、そういうわけだからな。今日はじっくりねっとり、かわいがってやるぞ)
 半身は今きっと、エロ眼鏡エロ眼鏡と喚いているだろう。
 だが、ひとつになった体の主導権を預かっている時は、意識だけでいる内側の半身が何を言おうが思おうが聞こえない。
 それをいいことに、いとまもなく一日中散々今晩のプランをプレゼンし続け、真っ赤になった半身のかわいい顔を想像しつつ、涼しい顔でいつも通りスマートに業務をこなす克哉に、何も知らない周囲からはやはり熱い視線が送られていた。


 定時と同時にさっさと退社し、にやける顔を隠せず電車に揺られ、全速力で駆け出したい気分を抑えて帰宅した。
 ああ早く、家に入って分裂したい。
「ただいま」
「……ただいま」
 お前一日中なに考えてるんだよ!! などと、あらゆる怒声罵声を想定していたから、背後から聞こえてきた震える声にはいささか拍子抜けした。
 どうやら少しいじめすぎてしまったようだ。
 ぴーぴーと騒ぐ半身を宥めて丸め込んで蕩けさせる楽しみがなくなったのは残念だが、家に帰るなり心も体も準備万端すっかりその気だなんて、それはそれで悪くない。いや訂正。最高だ。毎日そうならいい。
 期待に胸膨らませて振り向くと、潤んだ瞳で弱々しく睨む真っ赤な顔の<克哉>の予想以上にかわいさに撃ち抜かれ、一瞬気が遠くなりながらたまらず同じ体を抱き寄せる。
 冷えたコート越しでも分かるほど、その体が熱を帯びているのが感じられる。
「ほんと、やめて、お前……」
「ん?」
「仕事、集中できないから……」
「うん?」
「オレは、お前と違って、仕事の頭と、そういう……あれと、思考回路分けるとか、無理だから……」
「うん?」
「うんじゃなくて……」
 避けようとする顔を強引に寄せて、髪に額に頬にくちづけながら適当に相槌を打つ。
 呆れたように溜め息を漏らした唇を、その吐息ごとちゅっと音を立てて緩く吸う。
 柔らかく甘い感触に蕩けそうだ。
「やりたい」
 熱のこもった体を押し付けて、間近で見つめて、やっと直接伝えられたストレートすぎる欲望に、<克哉>が泣き出しそうに顔を歪める。
 拗ねたような表情がかわいくてぞくぞくする。
「やりたい」
 今度は耳元で、うんといやらしくひそやかに囁いて、もう蕩けきっているだろう<克哉>の脳内を甘く掻き乱してやる。
 びくりと震えた体をしっかりと抱いて、まさぐってくちづけを繰り返す。
 息は荒く、瞳は蕩け、すっかりスイッチの入った艶めかしい顔がたまらない。
「俺が飯作るから、お前は先に風呂に……」
 と言ったあと、あることが思い付く。
 そうだ、それはいいな。かわいい。見たい。そうしよう。
「いや、悪いがお前が飯作ってくれるか? 俺が先に風呂入るから」
「……なに企んで」
「何も企んでない。お前の手料理が食べたいから」
「……」
「ん?」
 明らかに怪訝に眉根を寄せる<克哉>の眉間をそっと啄ばんで、わざと胡散臭く微笑むと、諦めた溜め息をひとつついて、<克哉>が小さく頷いた。


 帰ったらそのまま玄関先でというのもいいが、今日はじっくりやると決めていたから、とりあえず先にあれこれ全て済ませてしまったほうが心置きなく存分に楽しめるというものだ。
 克哉がシャワーを浴びる間に作られた食事は、ところどころ味が薄かったりしょっぱかったり、<克哉>の動揺が丸出しで、それにすらにやけてしまう。
 引き受けた後片付けを手早くこなしながらも、鏡に映る己の昂った体に赤面しつつ、それを鎮めるように熱いシャワーを浴びる<克哉>を想像するとたまらなくて、とにかくもうただにやけるのが止まらない。
 少し雑に片付けを済ませ、いそいそと寝室に移動する。先に風呂から上がられたら、せっかく思い付いたことが台無しだ。
 寝室とサニタリーを繋ぐウォークスルークローゼットの通路が真正面に見える位置で、ベッドに腰掛けて少し長めになっている風呂を待つ。
 一緒に入ったり途中で乱入するのが常で、昨日も例によってそんなパターンでバスルームから激しく愛し合ったから、もしかしたら<克哉>は今日もそれを想定しているかもしれない。
 だが今日は、こうしてベッドで待って、もじもじと寝室に入り、おずおずと自分の元まで歩み寄る半身を視姦したくなった。
 半身の恥じらう姿は犯罪だ。清楚に頬を赤らめて、艶めく瞳で上目に見つめる。どこで身に付けたわけではない、生まれ持って自然に振る舞われる無意識の所作が、克哉の熱情を否応なしに煽る。
 克哉しか知らない、克哉にしか向けられない、欲を孕んだ甘い表情。声。指先。肌。熱。
 思い馳せると全てが愛おしすぎて、意味もなく叫びたくなる。
 一応それは自重して、代わりにじたばたと悶えてみたところで、<克哉>がバスルームから出た音がする。
 ああああ、行って濡れた体を拭いて髪を乾かしてやって、そのまま抱きしめて鏡の前で後ろから犯したい。
 仕事中に夜の戦略を構想する時は、この流れでこうしてそうなってああなってとよくよく練り込むのに、いざ実戦になるとそんなことはどうでもよくなってしまう。<克哉>と抱き合えるなら、もうなんだっていい。
 しかしここは我慢の心だ。とっくに消え去った理性を必死で呼び戻して、支度が整って寝室に入ってくる半身を待つ。
 クローゼットにはサニタリー側と寝室側の両方に引き戸が付いているものの、閉める必要がないし開け閉めも面倒だから普段は開けっ放しにしている。だが湿気対策として半身がサニタリー側に丈の長い暖簾をかけたから、こちらからは今<克哉>がどんな状態なのか分からなくてますます焦れったい。
 早く姿を見せて、恥ずかし気に歩いてこい。ああでも髪はきちんと乾かせ。風邪を引いたらいけない。
 物音が止んで、明かりが消される。いよいよ、恥じらったいかがわしい半身が拝める。
 クローゼットの暗がりを抜けて、寝室を包む暖色の柔らかい光りに<克哉>が照らされる。
 真正面で待ち構えていた克哉を見留め、そういうことかとクローゼットと寝室の境目辺りで立ち止まった<克哉>が、両手でパジャマの裾を握り、きゅっと下唇を噛んで、対峙した克哉を赤い顔で上目がちに睨んできた。
 そう。これが見たかった。本当にお前はいつもいつも、俺の期待以上のものを返してくれる。たまらない。やばい。いかがわしい。けしからん。
 自分が今どれだけだらしない顔をしているのかよく分かる。目尻は下がり、口元は緩み、まさに顔面大崩壊だろう。さすがに半身も若干引き気味の様子だ。
 そんな、引かれたってなんだって、何もかもはお前のせいだから仕方ない。
 まだ立ち止まったままの<克哉>に、変わらずにやけ顔で自分の腿を二度軽く叩いてみせる。その意図を正確に汲んだ<克哉>が溜め息をついて、やはり期待通りもじもじしながら歩み寄ってくる。かわいい。
 目の前まできた<克哉>を見上げ、もう一度腿を叩いてさあ座れと促す。やに下がる克哉にいささかうんざりしたような表情をしながらも、その望みを叶えてやるべく、スリッパを脱いで、膝を折って克哉の腿を跨ぎ、そのままそっと腰を下ろす。硬く引き締まっているのに弾力があって柔らかいというなんとも不思議な<克哉>の尻の感触が腿から全身に伝わって、思わずうっとり溜め息が漏れた。
 何度か腰を揺らして、収まりのいいところに尻を落ちつけたあと、おずおずと克哉の首に腕を回して恥ずかしそうに見下ろしてきた<克哉>のかわいさに、息の根を止められそうになる。
「これがしたかったってことか……」
「うん」
「にやけすぎ……」
「うん」
「もう……」
 呆れた顔がどうにもかわいい。たまらず膝の上の半身をきつく抱きしめると、苦しいよなどと小さく言いながら<克哉>もきゅっと抱きついてくる。
 風呂上がりの清潔な香りが鼻先をくすぐって心地いい。
 てのひらをさらさらと滑る髪は、きちんと乾いていてほっとした。
 髪を撫で、背をまさぐると、克哉の耳元に頭を凭れた<克哉>も同じことを返して、ますます愛しさが募る。
 心なしか揺れ出している<克哉>の腰をぐっと引き寄せ、克哉からも押し付けて、胸から腰まで隙間なく密着させる。
 ふたりの体の間で、熱を持った塊が重なり合う。
「あ、も、かたい……」
「お前だって」
「んっ」
 腰を回してすり合わすと、さらに互いの硬さが増した。気持ちがよくて、抱き合ったまま暫く腰を揺らす。
「は……」
「風呂でしてない?」
「っ、するわけ、な、い……」
「俺にされたいから、我慢した?」
「……うん」
 意地の悪い質問にも、素直に答えるのが嬉しい。
 頬を撫で顔を上げるように促して、欲情に濡れた瞳と見つめ合う。
 緩みっぱなしの頬を、<克哉>の両手が摘んで引っ張った。
「仕事中に、あんなことばっか考えて……」
「ちゃんと仕事もしてるだろ」
「してるけど……」
「心の中なんて他人には分からないんだ。真面目な顔で仕事をしながら、頭の中では誰しもそればっかり考えてる」
「そんなわけないだろ。たまにはまあ……もしかしたらそんな時もあるかもしれないけど、絶え間なくずっとそればっかり考えてるのなんて、お前だけだよ」
「俺だけじゃない。お前もだ」
「それはっ、お前が考えてるから、仕方ないだろ……こっちには全部筒抜けなんだから、つられるっていうか、なんていうか……」
「ああ。だからやっぱりお前も、絶え間なくずっとそればっかり考えてるってことだろ?」
「……うるさいエロ眼鏡」
「今は眼鏡してない」
「じゃあエロおやじ。ただのエロ。エロ魔人」
「ふん、悪い口だ」
「んむっ」
 お約束の流れで唇を塞ぐ。<克哉>もあれこれぶーぶー言いつつ、ここに辿り着くまでを待っていただけだから、すぐさま舌を差し入れてくる。
 気付けば帰宅以来のキスを、存分に味わう。
 克哉も<克哉>も、キスは大好きだ。ふたりでいる時はずっとしていたい。激しく絡ませるより、ねちっこくじっくり合わせるのがふたりの好みで、吐息のひとつも逃すまいと音を立てて貪る。
 だいぶ長く味わってから唇を離すと、蕩けた<克哉>の唇がまだ足りないと追ってきたから、もう一度軽く啄ばんでやった。
「俺が魔人なら、お前は神だな。エロ神だ」
「なにそれ」
「こんなやらしい顔してるから」
 頬と頬を擦らせる。くすぐったそうに小さく笑った<克哉>も、同じくすり寄ってくる。
「お前だって」
「お前のほうが」
「お前だよ」
「いやお前だ」
 終着点のないやり取りをしながらすりすりと頬を擦らせているのがおかしくて、ふたりで笑ってまた何度も唇を啄んで見つめ合う。
「もう、バカ」
「あーあ。俺のエロ神様は、なんてつれないお方だ」
「バカ。バーカ」
 まさにバカップルと形容するに相応しい戯れを甘く甘く交わしながら、唇を合わせて体をまさぐる。際限なく昂ぶる体を互いに押し付け、擦って、欲望を混じらせひとつにしていく。
 パジャマの裾から手を入れて直接肌に触れると、<克哉>がかわいい声を上げた。
「一日中やらしいこと考えてたから、すっかりその気になった?」
 <克哉>は答えず、荒い息をついて額に額をぶつけてくる。
「ん?」
「……分かってるだろ」
 ただのエロおやじな克哉の口に、<克哉>の口が被さって塞がれる。恥ずかしいのをごまかすように乱暴に吸い付く様がかわいくて、自然と唇の端が上がる。
 自分は必死でかぶり付いているのに、にやつく余裕のある克哉がおもしろくなかったのか、舌を喉奥まで突っ込んで呼吸を奪うほど激しく貪られる。
 そんなことをされたら、余計ににやついてしまうだけなのに。
「ん、ん、ん」
 くちづけに夢中の<克哉>が、克哉をベッドの上に押し倒す。
 息を切らせて、甘い鼻声を漏らして、懸命に舌を使う<克哉>に下半身が痺れる。
「んあ」
 <克哉>の背に回した腕を腰まで滑らせ、形のいい尻房を撫で柔らかい肉を揉み込む。引き締まった小振りな尻は、てのひらに収まりよく吸い付いて、一度触れるともう離せない。
 濃厚なくちづけを交わしながら、愛しい半身の尻を堪能する。何にも代えられない幸福なひと時に、全身にむず痒いようななんとも言えない感覚が広がって、じっとしていられない。
「ん、ふ、はあっ」
 後ろは狭間に指先を食い込ませて強く揉んで、前をごりごりと押し付ける。唇がわずかに離れる合間に漏れる嬌声にぞくぞくする。
 このかわいい半身を、めちゃくちゃにしてやりたい。
「わっ!ちょっ、んんっ!」
 湧き出る気持ちを抑えられず、力強く体を反転させ<克哉>に覆い被さってくちづける。
 突然の性急さについていけずじたばたともがく<克哉>を押さえ付けて、食らい尽くすようなキスで責め立てる。
 本当に、このまま食べてしまいたい。
「ん、ん」
 激しいくちづけを解くと、息つく間も与えず顔中に唇を落とす。薄い朱に染まったまなじりを舌先でつついて、張りのある頬に歯を立てると、びくんっと大きく震えた。
「ちょ、ま、や、ん」
「んー?」
 ぺしぺしと力なく肩を叩く拳を無視して、脚の間に割り込ませた腿で刺激しながら、首筋を唇で銜えて裾から忍ばせた手で腹筋をなぞる。
 鎖骨をきつく吸って跡を付けると同時に、手早くパジャマのボタンを外す。色付いた胸元の突起に舌を這わそうとしたところで、もがき続けていた<克哉>に額を強く押し退けられて引っぺがされた。
 強い抵抗に舌打ちをして睨むと、<克哉>もきっと睨んでくる。
「じっくり、じゃ、ないのかよっ」
 ……そういえば。今日はそんな予定だった。
 不満を訴える<克哉>の強い瞳に、沸騰して暴走した情熱が頭の中から慌てて逃げ出し我に返る。
 ついつい。何度体を重ねても、いつまで経っても、半身の肌に触れ色っぽい顔でかわいく喘がれるとがっついてしまう。
「あーまーそうだな、実物を前にすると、プランなんて飛ぶから」
「実物ってっ」
「そんなにじっくりに期待してたのか」
 せっかく今日はゆっくりまったりとろとろセックスを楽しみにしていたのに、昨日のようにがつがつと貪られそうになったから、いやこれじゃなくてと抵抗したのか。まったく、かわいいやつめ。
「好きだもんな。ねちっこくされるの」
 せっかくだからいじめてやる。反論できずにきゅっと下唇を噛んだのがかわいい。
「ねちねちといたぶられて、どこもかしこも蕩かされるのが大好きだからな、お前。まあ激しくされるのも好きだが。いやなんでも好きか、エロ神だから」
 言葉で嬲って興奮させるためというより、単純にからかうだけの意地悪な言葉に、頬を膨らませた<克哉>が克哉を押し退けてそっぽを向いてしまった。
「もういい。しない」
「こら。待て。悪かった」
「触るな」
「ごめん」
 背を向けた首筋に、耳元に何度もくちづけて許しを請う。けれど本気で拗ねたわけでも怒ったわけでもないのは分かっている。図星だから否定はできないし、かといって肯定するのも恥ずかしいからとりあえず拗ねた振りをしているだけ。
 そして許してもらうために克哉が詫びて媚びる。
 これもただのお約束。ただの甘い戯れ。
「……エロ魔人」
「うん」
 肩越しにちらりと見遣って謗る言葉に、でれっと笑ってやる。だらしのない顔の半身に吹き出した<克哉>が、やれやれと振り向いて向かい合う。
「もう」
 両手で頬を包まれて、目の前で甘く言われた。かわいすぎてきゅんきゅんする。
 たまらず唇に吸い付くと、嬉しそうにふふっと笑った。
「じっくり、ねっとり、な。時間はたっぷりあるから」
「……うん」
 とろんとした顔で頷く。やっぱりきゅんとして、ついまた暴走してしまいそうになるが、今夜はこんな蕩けたかわいい顔をじっくりたっぷり見たいから、それは今度に取っておこう。
 絶えず唇を啄みながら、さっきボタンを外したせいで露わになった肌を巡る。脇腹をさすると、一瞬小さく震えて身を引いた。
「くすぐったい……」
「ん?」
「ふふ……や」
 わざとくすぐる動きでいたずらする。長年想い続けた相手と、こんなバカップルにも程があるやり取りができるこの今に、感動すら覚える。
 ――仕事中に、あんなことばっか考えて。
 考えないはずはない。パソコンのキーボードを打つ指は確かに自分のもので、鏡に映る眼鏡をかけた顔もなんてことはない自分自身だけど、同時にそれは愛しい半身のものでもあって、ふと目を落とすと半身の繊細な指先がそこにあって、見つめると奥深くに同じ色を持つ瞳がそこにあるのだから。
 触れられなくても、見つめられなくても、いつでも互いに互いを感じている。
 分裂して存在を確かめ合っている時ももちろんいいが、体がひとつになって、直接には触れられなくなった半身に恋しさを募らせるのも、ふたりの同じ想いがより深まる気がして、克哉も<克哉>も案外好きな時間の過ぎ方だったりする。
「ん……」
 ひとつでいる間に蓄積させた想いを伝えるように、ふたつに分かれた体をてのひらでゆっくり撫でて、胸元で待ちかねている突起の周りをなぞる。心地好さげに小さく喘いだ<克哉>の表情に、艶が増す。
 もっと焦らして懇願させたかったのに、エロ神を冠するのに相応しい、色香だだ漏れの表情に煽られて、芯を持った尖りを指先でくるりと捏ねる。
「あっ、んっ」
「こりこり」
「ん、あ、バ、カ」
 感触の感想をそのまま口にしただけなのに、バカと言われた。克哉には<克哉>ほどのマゾヒズム的な部分はないが、<克哉>にバカと言われると、えも言われぬ快感のようなものが背筋を走る。
 だからもっといじめてやって、愛しい半身にバカと言われたい。この先もずっと、そんな日々を続けたい。
 張りつめた尖りが指に気持ちいい。<克哉>の好きなように強めに転がして、挟んで潰してはまた転がす。
「あっ、ん、やっ」
「いい顔」
「ふ、あ」
「気持ちいい?」
「ん……」
 うっとり頷く表情がどうにも卑猥だ。<克哉>には、自分がこんなにもいやらしい顔をしているという自覚はあるんだろうか。
 指での刺激を続けながら、長く深いキスをして、しっとりと汗ばむ肌を辿って唇を下げていく。さっき付けた鎖骨の跡を舌でなぞり、捏ね回す乳首まで這わせる。
 胸元には、昨日付けた跡やら一昨日付けた跡やらが薄く残っていて、その上から今日の跡もきつく付けてやる。
 真面目で仕事熱心な佐伯さんのシャツの下は、ほぼ毎夜刻まれる赤い所有の印で埋め尽くされているなんて、誰が想像できるだろう。
「んあっ!」
 痛々しいほど紅く膨れた乳首を弾くと、<克哉>が悲鳴を上げてのけ反った。その体を押さえ付け、震える突起を銜えて緩く吸う。
「あっ、あ、もっ、と」
 強く、でもそっと、何度も音を立てて吸って、舌で転がし歯を立てる。刺激するたび、<克哉>が頭を撫でてたり額にくちづけてくれるのが気持ちいい。
 指でいじる反対側にも舌を伸ばし、唾液に濡れた片方を摘んで、両の乳首を満遍なく責めてやる。
「ん、ん、あっ、きもち、い、気持いい」
「どこが?」
「や、や」
「ん?」
「ああっ! やっ、ちく、び、気持ち、いい……」
「ふうん。やらしいな」
「んっ」
 潤む瞳で卑猥に言えた<克哉>の目の前まで顔を上げて、深いキスを交わす。夢中で舌を絡ませながら、忙しなく体をまさぐり合う。
「んんっ」
 腿から腰骨を思わせ振りに何度か往復したあと、脈打つ中心に今夜初めて手を伸ばす。パジャマをはっきりと押し上げ膨れたそこは、元の肉の柔らかさが思い出せないほど硬くなっていた。
 形に添って何度か撫でると、我慢できないといった態で<克哉>も克哉のそこに手を伸ばす。触れられた瞬間、びりっと全身に電流が走った。
 全く同じ状態のそこを、見つめ合ってさすり合う。微笑むと、艶っぽく笑み返して舌を吸われた。
「あ、ん、ん、や」
 てのひらの中で、ふたつの猛りを密着させる。ごつごつと音がしそうなほど張りつめた熱芯を布越しにまとめて扱きながら、その感触とは逆の、弾力のある尻房を鷲掴みにして揉む。一方では硬くて、一方では柔らかく反発して、擦り合う下半身だけでなく、触れるてのひらまでもが気持ちいい。
「は、ん、あっ、汚し、ちゃう」
「もうそんな?」
「だっ、て」
「脱ぐ?」
 必死で頷く<克哉>がかわいい。
 すでにボタンの外れている<克哉>のパジャマを脱がせて、<克哉>には克哉のパジャマのボタンを外させる。
 なぜか<克哉>はボタンの付いたいかにもパジャマ然としたパジャマが好きで、ふたりの寝衣はもっぱらパジャマだ。
 スウェットやTシャツのほうが楽なのにとは思うが、こうして<克哉>が恥じらいながらボタンをひとつひとつ外していく様をにやにや眺めるのは好きだから、寝巻きパジャマ固定に異論はない。
 引き下ろした下着を弾くように零れたペニスは、硬い感触通り、つるりと張りつめて先端が濃く色付いていた。笠の縁をそっとなぞると、<克哉>が息をつめて大きく震えた。
「はぁ……」
「気持ちいいな」
「うん……」
 纏うもののなくなった素肌を強く抱きしめる。滑らかな熱い肌と肌が吸い付いて、心地好さに自然と溜め息が漏れる。
 どちらからともなく自然に揺れる密着した腰の狭間から、溢れた蜜の混じり合う水音が立つ。
「もうこんなに濡れて」
「ん、ん」
「感じてる?」
「うん、うん」
 上気した頬であどけなく頷くのがたまらない。真っ直ぐ見つめる蕩けた瞳に微笑んでやって、何度も何度も唇を啄ばんだ。
「触ってもいい?」
「っ、うん……」
 耳元で囁いたおねだりに、<克哉>が跳ねる。何をしてもかわいく反応するのが、どうしようもなく愛しい。
「あっ……」
「うわ、すご。がちがちのぬるぬる」
「っ、バ、バカ」
「なんで。ほんとのことだろ」
「あっあっ」
 先端から溢れる滴を指先に絡めて、下腹に張り付くペニスをゆっくり扱く。
 間近で見つめて、時折キスをしながら往復するうちに、<克哉>の瞳がオレも触れたいと訴えてくる。許可する瞳を返してやると、じっと見つめたまま<克哉>も克哉のペニスに優しく触れた。
「ん……」
「お前のも、すごい……」
「うん。きつい」
「一回、手で、いく?」
「んー」
 緩やかに扱き合う下半身に視線を落とす。互いの手に包まれた、濡れ光る猛りきったペニスが興奮を煽る。この状態だと、一度解放されても形を保ったままだとは思うが、少しでも熱を冷ましてしまうのはなんだかもったいないような気がしてきた。
「出したら終わりにしようか」
「え?」
「出したら、そこで終わり。途中でも」
 唐突に切り出した意味不明で理不尽な提案に、<克哉>はどう返していいのか分からずうろたえる。
 困った顔をしながらも、上下する手が止まらないのがおかしい。
「我慢比べ」
「や、やだ」
「じっくりするんだから、そんな何回も出してたら続かない」
「でも」
「我慢して我慢して、最後の最後にたっぷりと……」
「そん、なの」
「それいいな。そうしよう?」
 甘える声音で唇を啄んで、握った手に力を込める。
 卑猥な水音を立てて茎を扱いて、先端を包んで捏ね回す。
 出したら終わりと言ったそばから本気で責める手つきに、<克哉>がもがいて抵抗するが、激しく襲う快感からか思うように力が入らないようだ。
「やっやっやっ」
「ほら、我慢しないと、終わるぞ?」
「んあっ! やだ、やだ」
 耳に舌を入れて囁く。ますます快感を強めた<克哉>の抵抗は、いやだと発する甘い声だけになる。
「や、や、やだっ」
 すり寄って泣いて媚びる<克哉>に獰猛に微笑んで、容赦なく追いつめる。
 次から次へと溢れる蜜は、<克哉>の下腹と克哉の手をぐちゃぐちゃに濡らした。
「やだ、やだ、やだっ!!」
 扱く手に押し付けるように大きく腰がせり上がり、根元から陰嚢に繋がる皮膚が引きつれて、今まさに絶頂を迎えようとした瞬間。
「ひっ――」
 飛沫上げようと脈打った怒張から、非情に手を離す。
 ここまで昇りつめてしまえば、触れる必要もなくあっさり達してしまうところだが、出したら終わりと克哉が適当に言ったことを律儀に意識して、<克哉>はきつく唇を噛んで必死で耐える。健気な<克哉>の姿に、愛しさが破裂して克哉のほうが達してしまいそうだ。
「我慢したな」
「は、は、は……」
 目尻から零れる大粒の涙を吸い取って、顔中にキスを落とす。
 理不尽でも、非情でも、<克哉>は克哉の言うことを受け入れて、出来うる限り応えてくれる。
 なに言ってるんだよとか、バカじゃないかとか冷たく返されることも時にはあるものの、どんなわがままも受け止める半身が愛しくて愛しくて、ついにやにやと口元が緩んでしまう。
 そんな克哉の表情を、今の所業も含めてからかわれていると勘違いしたらしい<克哉>が、頬を膨らませて睨む。
 半身の怒った顔は、恥じらう顔とはまた違うかわいさがあって、ついさらにでれりと目尻が下がる。
 やっぱりからかってるんだと捉えたらしい<克哉>が、一度きっと強く睨んでから、ただ握るだけになっていた克哉の屹立を激しく扱きだした。
「おっ。こら」
 一応軽く咎めてみても、睨み続ける<克哉>の手は止まらない。
 どこをどう触れれば一番よくなれるかを知り尽くした半身の手が、卑猥な動きで克哉の熱を高める。
 よすぎるせいで、あまり互いに責めないことにしている最弱点も、巧みな指先が無遠慮に刺激する。
 まだ<克哉>が内なる半身の存在を知らなかった頃、<克哉>が自己処理をする時には最後に必ずそこを擦ってから射出していたことを、克哉はよく知っている。
「こら。こら。出るから」
 断続的に背筋が甘く痺れる。
 陰嚢から裏筋を僅かに爪を立てて優しく掻かれて、全身を駆け抜ける快感に思わず小さく喘いだ。
「出たら終わりだぞ?」
 むくれて睨んだままの<克哉>がどうにもかわいい。つい笑い出してしまいそうになるが、そんなことをしたら本気を出した<克哉>にどんなことをされてしまうのか分からない。それはそれで、楽しそうでぞくぞくするが。
「あーあ、やばい」
 ぬめるペニスをてのひら全体で扱かれて、もう気持ちよくてたまらない。
 愛しい半身の愛撫に導かれ、目の前まで迫った頂きにあと一歩という際まで昂ったところで。
「んっ……」
 情熱的に絡まっていた<克哉>の手がぱっと離される。そうされると分かっていたから、目を閉じ歯をくいしばって、先程の<克哉>のように射精を耐える。
「ふっ……」
 一点に集中していた熱を、なんとか周りに散らす。腰が勝手に震えて、克哉の意思と切り離された肉体が、寸止めされた不満を訴えているようだ。
 一息ついて<克哉>を見ると、まだむくれて睨んでいて、こらえ切れずとうとう笑ってしまった。
「はいはい悪かった」
 ご機嫌取りのキスをしようとしても、ふいっと避けられた。だが逃げようとはしないから、目の前の<克哉>をすぐ捕まえて強引にくちづける。
 バードキスをうんざりするほどしつこく与えると、お許しなのか<克哉>が唇を気持ち広く開いたから、喜んで舌を差し入れた。
 仲直りのキスなのかなんなのかよく分からないが、とりあえずキスしたいから、しばらく半身の甘い唇と舌を味わう。
 同じタイミングで絡まる舌が気持ちよくて、今し方耐えた絶頂にキスだけで昇りつめそうだ。
「んー、ふあ……」
「……でも、よくないか? 我慢するの」
 せっかく許してくれたのにまた睨まれそうだと思いつつも言ってみたら、やっぱり当然睨まれた。
「じっくりだったら、我慢できそうだが」
 むっつりする頬を撫でる。こんな顔をしていても、心の中では克哉の提案にちょっと魅かれつつあるのが、下がりきらない口角から感じられる。もうひと押しか。
「最後出す時、ものすっごい気持ちいいぞ」
 快感に弱い<克哉>には、気持ちいいという言葉が一番効果的だ。
 いいように言い包められているのは分かっているのに、そう言われてしまうと心揺らぐ浅ましい自分がいやだと<克哉>は思っているようだが、克哉にとっては大変好都合だから、半身にはずっとそのまま単純な淫乱でいてほしい。
「ん?」
 尖る唇を吸う。さらさらと髪を梳いて、分かりきった答えを待つ。
 しばらく目線を彷徨わせて思案したあと、窺うようにちろりと上目で見遣る顔がかわいくてときめいた。
「途中で」
「うん?」
「途中で、もし、出しちゃっても、終わりに、しないなら……」
 視線を合わせず、消え入りそうな声でむっつり呟いた言葉に微笑む。
 そう。<克哉>がむくれているのは、我慢しろと言われたことでもからかわれたことでもなく、終わりにすると言ったから。
「うんしない。終わりにしないから」
 引っ込みがつかないのか、むくれた顔をし続ける<克哉>にまた何度もキスを繰り返す。
 優しく抱きしめて、優しく優しくキスをして、愛情をたっぷり注ぐ。甘ったるい空気に包まれ、膨れっ面が徐々に解れた<克哉>が、克哉の頬に手を伸ばし自分からキスしてきた。
「じゃあ、罰ゲームにするか。出したら一週間、俺の言うことなんでも聞く」
「なんでもうオレが罰ゲームすることになってるんだよ」
「ん? ああそうか。相手の言うことなんでも聞く、だな」
「もう」
 頬をぶにっと摘まれた。その顔はもうむくれてはいなくて、ご機嫌は直ったようだ。
 むくれた顔もかわいいからそのままでもなんの問題もないが、ほんとにお前は仕様がないんだからと苦笑する顔がよりかわいくていい。
「それにしよう? 楽しいぞ」
「楽しいか?」
「楽しいだろ」
「そうか?」
「ああ」
 にこっと若干わざとらしく微笑んで、ちゅっとキスする。
 <克哉>は大きく溜め息をついて、また克哉の頬を摘まんでぐにぐに捏ねた。
「分かった。付き合ってやる」
「うん」
「でも、無理矢理出させようとするのは無しだからな」
「分かってる」
 また深くキスを交わす。
 お前はいつだってこうして、くだらないわがままでもなんでも、呆れながらも望む通りにしてくれる。
 なんて愛しい。愛しい愛しいお前。
「はい、じゃあスタート」
「ふっ、なにそれ」
 開幕宣言に笑う<克哉>に克哉も笑って、仕切り直しのキスをした。



 数えきれないほどキスをして、呆れるほどに体を重ねているのに、まだまだ、もっともっとと求めてしまう。
 足りるわけがない。飽きるわけがない。
 元はひとつの半身と、元のひとつの本来あるべき姿に戻る当然の行為を、どうして飽きることがあるというのか。
 まだ今宵は始まったばかりなのに、もう何度目なのか分からないキス。
 半身の唇は柔らかくて、舌は甘くて、熱い吐息は切なくて、震える睫毛はかわいくて、ああもう、この愛しい存在を形容していたら限りがない。
 誰よりも何よりも愛しい愛しい、この世で唯一の己の半身。
「んあっ」
 首筋を辿って、赤く色付く胸の尖りを音を立てて吸う。先程の刺激でより敏感になった粘膜を、<克哉>が一番感じるように、こうされたいと願う通りに淫撫する。
 もっと気持ちよくしてやりたい。<克哉>のいいところをあまねく愛して、快楽だけを与えたい。
「あっ、あっ、きもちいい、すごい気持ちいいよ、<俺>……」
 克哉の切望を感じ取ったように、<克哉>が喘ぐ。体はふたつに分かれていても、余人も入る隙間のない深いところで通じ合えているのが嬉しい。
「あっ、あ、んんっ」
 髪を掻き回されて、撫でられて、愛撫に対する<克哉>の応答が気持ちいい。
 快感に彩られた艶めかしい顔を上目で窺うと、視線に気付いた<克哉>が、克哉と目を合わせてふにゃっと笑った。
 あまりにもいやらしくて、かわいくて、極限まで張りつめた下半身にまださらに血が集まっていく。
「んっ……」
 皮膚の薄い内腿を撫でるついでに脚を開かせ、肌に隙間なく唇を落としながら下腹に下る。
 目の前の屹立は先端からとめどなく蜜を溢れさせて、慈しまれる時を待ち侘び大きく脈打つ。
 硬く反り返ったそれはいかにも卑猥で、欲に塗れた性そのものを主張しているのに、凛とした様はいっそ清楚で気高くすらある。
 一度やわやわと握ってすぐ離れ、つま先まで丹念に脚を愛撫して焦らしたあと、中心に戻って<克哉>を仰ぐ。
「我慢できそう?」
「ん……」
 甘く漏れた音は、返事のようでもただの喘ぎのようでもあって、おかしくてふっと笑う。
 早く早くとひくついて誘うそこを右手で軽く扱き、小孔から溢れる甘い蜜を優しく吸った。
「ふあっ!」
 びくんっとのけ反った<克哉>が、縋るように克哉の髪を指に絡める。
 まだちょっと吸っただけなのに、激しく反応するのがかわいくて仕方ない。
 反り返った下腹に小さく水溜まりを作った粘液も丁寧に舐め取って、我が王お待ちかねのご奉仕を開始する。
 繊細な壊れ物を扱うように両手で恭しく支え、まずは雄身全体にキスを捧げて敬愛を示す。
 次いで痛々しいまでに張りつめた幹から先端を舌で何度も舐め上げ、尖らせた舌先で笠の庇を左右に往復する。
「あっあっあっ」
 弱い右を重点的に責めてやると、身悶えて克哉の髪を掻き乱す。
 <克哉>の頭の中からは、出したら罰ゲームということはすっかり消えてしまっているだろう。
「ほら、ちゃんと見てろ」
「っあ」
 <克哉>の手を引いて、少し体を起こすように促す。枕に体を預け、角度を付けて見下ろす期待に満ちた瞳ににやりと笑ってやる。
「あっ……」
 窄めた唇を狭い入り口に見立て、押し広げるような動きでゆっくりと先端を飲み込んでいき、舌に当たる裏の窪みをなぞる。
 それだけで、きれいに舐め取った先走りがまた溢れてきて、ぬめりが増えて都合がいい。
 しばらく先端だけをじっくり責めて、たまらなくなった<克哉>が無意識に腰を突き入れたところで根元まで飲み込む。
「ああっ、あっ、やっ、あっ」
 舌を使い唾液を塗して、根元から先端、先端から根元へと唇を往復させる。
 銜え飲み込むのが<克哉>からよく見える位置で殊更ゆっくり施し、<克哉>の視覚も愛撫する。
「あっ、あっ、そんな、いっぱい」
 そうだ。大好きな俺にこんなに奥までいっぱいに銜えられて、こんなにいやらしいことをされてるぞ。だからもっと感じろ。もっと鳴け。
 胸元に手を伸ばし乳首も責めると、口の中のペニスがひくひくと反応した。
 手で、舌で、指先で、快楽だけを与えたいと先程思ったことを存分に実行する。
「やっやっ、や」
 わざとらしく大きく音を立てて上下させ、愛しい半身の分身をたっぷり味わう。
 硬い肉の感触は舌に気持ちよく、ペニスというものは舐めしゃぶるのにはなんて最適なんだろうとしみじみ思う。
 一方こちらは弄ぶのに最適な、ペニスの下で対をなす膨らみをてのひらで包んでたぷたぷと揺らして楽しむ。
「あっ、それ、だ、め」
 中のしこりを優しく転がしながら表面を舐め、下に続くラインを揉み込んで、そのさらに下でひそやかに息づく蕾の縁を指でつつく。
 何もしていないのにもう綻んで口を開ける襞が、指先を捕らえようと収縮し食べられそうになった。
「んーっ」
 もぐもぐとペニスを食み陰嚢を揺らし会陰を押し込んで、蕾の縁を擦り体をまさぐる。なんだかもう楽しくて仕方がない。
 半身の全てを味わうのは、どうしてこんなに楽しいんだろう。
「ん、ん、<俺>、気持ちい、気持ちい、いい、いい」
 <克哉>が克哉の頭を撫で、もつれる口調で繰り返す。
 甘えた声が耳に心地好くて、銜えながらにやけてしまう。
「な、な、<俺>」
「んー?」
 奉仕を続ける克哉の手をきゅっと握り、ふいに<克哉>が呼ぶ。指を絡めて握り返して、生返事をする。
「ん……オレ、も、一緒に」
「んー?」
 一緒に。オレもお前にしたい。重なり合って、互いに奉仕し合いたいとの魅惑的な提案だ。
 もちろんそれでもいいが、そうなると。
「んー。だめ」
「ん、な、で」
 なんでかなんて、決まってる。
「顔見えない」
 し合うのは好きだが、感じる顔や怒張した雄を口いっぱいに頬張る卑猥極まる顔が見えなくなるのが難点だ。
 相互の提案を却下された<克哉>は、少ししょんぼりしている。
 そんなに俺のを食べたいのか。かわいいやつめ。
「じゃあ……」
 幹に張った筋をなぞる克哉を名残惜しそうに離し、<克哉>が身を起こす。
 全身を侵す快感のせいでよろめく<克哉>を支えてやって、上下を入れ替え<克哉>に組み敷かれる格好になった。
「交代」
 鼻先を付けた目の前でいやらしく微笑んで、ひそやかに告げる。
 欲情に潤んだ瞳が、上気した頬が、唇にかかる吐息が。何もかも全てかわいく愛おしくて狂おしくて、心の中で絶叫しておいた。
「お前はいいのか?」
「ん。オレの番」
 はにかんで言う。かわいい。
 分かった、と頭を撫でやると、嬉しそうに抱きしめられた。かわいい。
 濃厚な長いキスをして、克哉がしたように全身足先まで愛撫されてから、<克哉>が腰元に伏せる。
 淫らな奉仕がよく見えるように、先程の<克哉>と同じく枕を背にして角度を付け見下ろすと、<克哉>も見えやすい位置に頭をずらす。まったく、いやらしいやつだ。
 克哉の屹立を眼前に、うっとりした顔をしながら両手で包んだ<克哉>の喉が、ごくりと上下するのが見えた。
 先走りを絡めて手で軽く扱かれる。張りつめすぎて僅かに痛みすら感じるそこは、緩やかな接触にも敏感に反応してしまう。
「すごい……」
 脈打つ熱さと硬さに思わず感嘆した<克哉>に、つい噴き出した。
 しまった、と恥ずかしげに上目を寄越したたまらない顔にもペニスが震えた。
 もう何をしてもされても、何を言われても、半身がすることなら、言うことなら、この半身であるならば、無意識のうちに勝手に体が反応する。
 これが愛か。そうか。ならこれから先も永遠に、俺はお前の仕草のひとつひとつに反応し続けるんだな。
「こっち見て」
「ん」
 言われた通りに克哉を見つめながら、<克哉>が克哉のペニスに舌を這わす。
 羞恥に頬を染めつつも、積極的に、大胆に舐めしゃぶる。
 いいところを散々に嬲ったかと思えば、焦らして突き放す。もっとと腰を揺らしてねだると、ふっと笑ってまた責める。
 どこを取ってもいやらしい。とんだ魔性だ。
「は、んむ、んーっ」
 克哉を口いっぱいに銜え、夢中で頭を上下させる<克哉>にぞくぞくする。
 <克哉>の触れているところがびりびりと痺れ、その感覚が全身に広がって甘く蝕む。
「あー、いきそう」
 <克哉>の技巧に顎を上げて呟くと、<克哉>はさらに喉奥まで飲み込み舌で転がし追い込んでくる。
「こら、無理矢理はだめなんだろ」
 動きを止めるために<克哉>の額を軽く抑え、忘れているだろうことを忠告すると、案の定<克哉>はきょとんと見つめてきた。
「罰ゲーム」
 僅かな間のあと、あ、という顔をして、克哉の顔とペニスを交互に見たのがおかしい。
 くすくすと笑いながら体を起こし、<克哉>の腕を引いて、あぐらをかいた腿の上に座らせ強く抱きしめる。
「忘れてただろ」
「……だって」
「夢中だもんな」
 反論できず、言葉にならない言語を耳元で何やらむにゃむにゃ言うから、また笑ってしまう。
 少し拗ねた<克哉>の頬を、ご機嫌取りに優しく啄んでやった。
「同時に出ちゃったら、罰ゲームはなし?」
「んー、そうだな。その場合は」
「先に出したほうがってことな」
「ん。それで」
「分かった。負けない」
「どうだか」
「負けない!」
「ふうん?」
「負けない!」
 鼻息荒く宣戦布告する<克哉>がどうにもかわいくて、もうどうすればいいというんだ。
 とりあえずは、頑張って、と謎のエールを送っておいて、引き締まった細腰を撫でる。
 勇ましく気合いを入れた<克哉>だったが、肌を滑るてのひらにぴくんと震えて吐息を漏らす。
 敏感な半身ににやつきを隠せず、やに下がったまま尻房を揉んで腰を上げろと促すと、蕩けて上気した顔に僅かにうんざりした色を滲ませつつ、<克哉>が膝を付いて腰を上げた。
 柔らかく滑らかな肌を暫し堪能して、指先で谷間を何度か往復してから、密かな蕾が隠されたその奥に滑り込んだ。
「うわ、何これ」
「んっ……」
「すごいことなってる」
 ローションも何も塗していないのに、伝う先走りで露に濡れる蕾は、綻んだ口先をふっくらと開かせ、熱くうごめく内襞を掻き交ぜられる時を今か今かと待っていた。
 ほんの少し指先に力を入れただけで、悦んで訪問者を迎えようとする。
「んっ、あっ、あっ、やっ」
 <克哉>ももう、指はまだ入っていないのに、まるで激しく掻き回されているかのように克哉にしがみ付いて鳴く。
「やっぱり勝ち目なさそうじゃないか?」
「うっ、やっ、ま、まけ、ないっ」
 ああもうほんと、なんてこの半身はかわいいんだ。
 しがみ付く肩に、首筋にくちづけ愛しさをぶつけながら、熱烈な歓迎を受ける指をまず一本、そっと差し入れた。
「うーっ」
「何、もうとろっとろ」
「ふやっ、やっ」
「熱い」
 先走りに濡らしただけで心配はあったが、予想以上に解れた内壁の柔らかさと熱さにほっとした。
 すぐに二本目を加えても、襞がうごめきどうぞどうぞと奥まで導かれる。
 遠慮なく、誘われるまま奥まで突き入れ襞を掻く。ひっきりなしに喘ぐ<克哉>の嬌声が耳に心地いい。
 こんなに柔らかく蕩けているのに、動かしづらいほどきゅうきゅうと吸い付いて狭さを感じる。まるで矛盾している不思議な感覚だ。
「あっあっ、あっ! そこっ!」
「これ?」
「っ!」
 入り口に近いところの最弱点を見つけ、指先でつつくと、息をつめてきつく抱き付いてくる。
 ここはあまりやりすぎると<克哉>の意識が飛んでしまう場所だから、何度も体を重ねる中で今ではもう完璧に身に付けた絶妙な力加減で、一番心地好く気持ちよくなれるように巧みに責める。
「んー、<俺>ぇ、きもちいいよぉ……」
「こっちも?」
「ひっ!! だ、だめっ! ふたつ、だめっ」
 天を衝いて聳り立つ雄身に手を伸ばすと、<克哉>が悲鳴を上げて背中に爪を立てた。
 ぴりっとした痛みも、<克哉>から与えられたのなら快感だと思う自分の半身馬鹿っぷりに、さすがに苦笑する。
 半身の『だめ』は『いい』と同義だと重々分かっているから、気にせず前と後ろ両方を捏ね回す。
 <克哉>はだめだめと繰り返しながら腰を揺らし小刻みに体を跳ねる。
 そんな状態でありながらも、しがみ付いた震える手をなんとか克哉の屹立まで下ろして、必死で扱いて快感を返そうとするのがたまらない。
「だめ、だめ、だめ」
 膝立ちでいられなくなった<克哉>を横たえ、向かい合わせで濃厚なくちづけを交わして扱き合い掻き交ぜる。
 気持ちがよすぎて自然と喘いでしまう。
「あー……」
「ん、ん、きもちい、きもちい」
「気持ちいい?」
「うん。気持ちいい」
「どこ気持ちいい?」
「あ、あ、ゆび、入って、る、とこ」
「どこ?」
「っ、っ、お、おしり、なか、気持ちいい」
「そうか」
「んうーっ」
 半身の卑猥さたるや、最早エロ神どころではない。
 では他に何か例えがあるかと言えば、それ以外の形容が浮かばない。
 いやらしいとか、卑猥とか、エロいとか、淫乱とか、そういう言葉は半身のためだけにあるような、いやむしろ半身が発祥なんじゃないかとかくだらないことをだが真剣に思う。
 淫乱な半身の、卑猥な粘膜をいやらしく交ぜる。
 絡まる舌も、触れる肌も、埋める指先ですら、<克哉>を感じる細胞の奥まで全てが気持ちいい。
「入れるのもったいない」
 早くひとつに繋がりたいのはやまやまだが、なんだかそんな気もして唇を合わせたまま呟くと、<克哉>が何か思い付いたようにふっと笑った。
「ん……だったら、いれない?」
「ん?」
「入れないで、おく?」
 ふへへ、と笑う<克哉>に、克哉もいたずらっ子のような笑みを返す。
「そうだな。入れないでおこうか」
「うん。じゃあ、寝る?」
「ああ。もう遅いしな」
「うん。寝よう」
「ああ。おやすみ」
「おやすみ」
 ちゅっとおやすみのキスをして、額を合わせ目を瞑り、ふたりで寝たふりをする。
 だがほんの数秒でどちらからともなくくすくす笑い出して、止めた動きが再開される。
「ん、ん」
 水音を立て掻き回して捏ねる。やっぱりどうしてもこの中で包まれたっぷり注いで、飛沫上げる<克哉>の究極の姿が見たい。
「ふあ、あ、ん、寝ない、のか?」
「んー?」
 そんなことを言いつつ、<克哉>も本気の手付きで克哉を扱く。
「寝るのか?」
「寝るん、だろ?」
「うん」
「なに」
 続く戯れに笑い合ってキスをする。何度も何度も啄んで、見つめてそっと囁く。
「入れたい」
 おねだりに、<克哉>がかわいく微笑む。
「入れるの?」
「いやか?」
「寝るんじゃなくて?」
「うん。寝るのはあとにしよう」
 ふふ、と笑って、蕩けた瞳を細める色っぽい表情に、改めて見惚れてしまう。
「入れる?」
「うん。入れて、いっぱい擦りたい」
 扱く<克哉>の手が止まり、きゅっと握り込まれる。
「これ……?」
「ん」
 上目がちに尋ねる様にぞくぞくしながら頷くと、<克哉>もうんうんと小さく二度頷く。
「い、よ」
「いい?」
「うん。許す」
「ありがとう」
 おかしなやり取りの終幕にまたふたりで笑って、深いキスを交わす。
 気持ちいい。これからもっと気持ちよくなるかと思うと、嬉しくて破裂しそうだ。
「はあっ」
「足、上げて」
「ん」
 指をそっと引き抜いて、向かい合わせで横になった姿勢のまま蕩けた蕾に先端を宛て行う。
「っ」
 十分に濡れたそこは、ぐっと腰を入れると、克哉自身の先走りも相まって抵抗なく奥まで進む。
「んーっ……」
「っ、あー、気持ちいい……」
 指以上の大歓迎を受けて、しみじみ呟く。
 収めた先端から根元まで、克哉の形通りにぴったりと絡み付く襞が揉み込むように蠕動して、下半身から湧き上がる快感に頭の芯が痺れる。
「あーすごい。今、ここ……」
「あっ!」
 ひくひくと痙攣する<克哉>のペニスを握ると、克哉を包む内側がさらにぎゅっと締まった。
「うわっ。ほら、ここ、きゅうきゅうに吸い付かれてる」
「やっやっやっ!」
 一番締め付けられている笠の張りを、克哉と同じ形の<克哉>のペニスで文字通り指し示す。
 てのひらで包み搾るように揉んで襞の動きも再現して伝えると、感じすぎるのか首を振って泣き出した。
「すごい、全部絡まって……もう出そう」
「やだ、だめ、だめ、離し……」
「なんで。気持ちいいだろ?」
「だめ、気持ちいいから、だめ」
「まったく」
 苦笑してペニスに絡めた手を離す。
 息も絶え絶えに枕を握って縋り付くのに妬けて、枕じゃなくて俺に縋れと腕を引く。
「まだ入っただけだぞ?」
「だ、て」
「そんなに気持ちいいのか」
 真っ赤な顔をさらに染め、下唇を噛んで恥じ入るかわいさに、中のペニスがひくっと跳ねた。
「もっとよくしてもいい?」
「ん、ま、も、少し……」
「ん」
「んー」
 抱きしめてキスをしながら完全に馴染むのを待つ。
 お互い大きく吐息を漏らしながらねっとり舌を味わう内に、少し余裕のできた<克哉>が内壁をわざと動かした。
「あ、それいい。それして。動かして」
「ん、ん」
「あー……いい」
 お返しにペニスをぴくぴくと動かすと、無意識にさらに締まって、一体この中はどれだけ締まるのかと感心する。
 動かし合いの流れでどちらからともなく腰が揺らめき、小刻みな浅い出し入れからゆったりとした深い出し入れが始まる。
「あっ、あっ、<俺>っ」
 じわじわ動かして、極上の蜜壺を隅々まで確かめる。
 どこを擦っても健気に主を迎える粘膜が懸命に奉仕して、ペニスが溶けてなくなりそうだ。
「いい、いい、もっとっ」
「もっと?」
「ん、ん、もっ、もっと……」
 では遠慮なく。
 体を起こし<克哉>を組み敷いて、正常位に変える。
 足首を肩に乗せ奥深くまで届かせてから、激しく抽挿して揺さぶる。
「ひっ、あ、ああっ!」
 悲鳴を上げる<克哉>を真上から見下ろす。快感に侵された眉根を寄せる顔は艶めかしくて、かわいくて、もっともっと感じさせたくて散々に腰を使う。
「あああっ! あっ、あっ、すご、い、いいっ、きもちいいっ」
「ん、気持ちいい」
「う、あっ、ん、もっと、好きに、して、い、よ」
「そんなエロいこと言うな」
「ああああっ!」
 煽られて硬さと腰使いが勢いを増す。
 淫乱で貪欲な半身は、こんなものじゃ満足できないだろう。もっと、めちゃくちゃに、壊すほどに責め立てたい。
 夢中にさせて、狂おしく愛しい半身に、もっともっと愛されたい。
「んあっ、あっ、<俺>、<俺>、好き、好き、だい、すき」
「ん、俺も、好きだ」
「好き? 好き?」
「大好きだ」
 凶暴に突き入れる腰とは真逆に、甘く優しく言ってやると、<克哉>が嬉しそうににへらーと笑って舌を出す。克哉も舌を伸ばして応じて、今夜はもう百回位してるんじゃないかという気がするキスを交わす。
「んー、んーっ」
 深く突き入れ最奥を突いて、浅い弱い部分を笠の縁で意識して擦る。柔らかい粘膜の内側の硬いしこりの感触が、克哉にとってもたまらない快感を与える。
 <克哉>の体と内壁が不規則に痙攣して、さらに高い嬌声を上げ始めた。
「あ、あ、あ、あ!!いっちゃうっ」
「我慢しろ」
「や、だめ、いっちゃ……」
 克哉を切なく見つめて涙を一筋流した<克哉>の瞳が一瞬見開かれ、すぐぎゅっときつく閉じられる。
 <克哉>自身ですらコントロールできなくなった体が、<克哉>を頂点に導く。
「あっ──!!!」
 一際甲高い声を上げ、体を大きく跳ねさせ<克哉>が達するが、ふたりの腹の間に挟まれた色濃い雄身は先走りの蜜を零すだけだ。
「おー、ちょっと……やば……」
 射出のない絶頂の強い快感に震え陶然とする内襞が、克哉を容赦なく締め付け搾り取られそうになるのを歯を食いしばって耐えた。
 焦点の合わない瞳で荒く息をつく<克哉>の頬を優しく撫でて、額にそっとくちづける。
「出してはないからセーフ」
「は、は、あ、ばか」
 ふざけて言うと、ちょうど<克哉>の手が置かれていた腿を弱々しくぺちんと叩かれた。
 余韻に浸る<克哉>の落ち着きを待つため、キスをしながら頭を撫で、ゆりかごに乗せたように体を揺らす。
 ざわざわと忙しなくうごめいていた内壁が、規則正しい蠕動に戻ったところで、<克哉>がぎゅっと抱き付いてきた。
「ん、ん……」
「後ろから突きたい」
「っ……」
 耳元で囁くと、<克哉>が息を飲む。
 そのまま耳たぶを甘噛みして、首筋を跡が付かない程度に吸い、膨れた乳首を強く吸う。
「んあ」
 そうしてからそっとペニスを引き抜き、<克哉>を四つん這いにさせる。
「もっと上げろ」
「あ……」
 目の前に曝け出された秘部をよくよく視姦して、濡れそぼってひくつく入り口に両手の人差し指を差し入れ左右に離して口を開かせる。
「や、や」
「すご、ひくひくして真っ赤……やらし」
「やあっ」
 紅く爛れた粘膜が、先程まで中をいっぱいに満たしていた主を求めて収縮を繰り返すのがよく見える。
 散々擦っていたぶっているのに、きめ細やかで薄い皮膚はいつ見ても可憐で、鮮やかに充血し口を開いた今は美しくただひたすらいやらしい。
 このきれいでいやらしいところに突っ込んで、最高の奉仕を受け天国に連れていかれるんだ。
 なぜだか少しどきどきしながら、誘う入り口に我慢ができず、くるりと舌で舐めてから、一気にペニスを突き入れすぐさま激しく掻き回す。
「ああっ、あっ、や、だめ、だめ」
「だめじゃないだろ」
「あっあっ! あっ、ん、いいっ、いいっ」
 素直に訂正して喘ぎ狂うのがかわいい。
 自らも激しく腰を揺らす<克哉>の滑らかな尻を、ぱちんとひとつ叩く。
「ほら、自分で動け」
「あ、あ、あ」
 動きを止めた克哉の分も、<克哉>が懸命に腰を動かし出し入れを繰り返す。
 半身の腰使いによって太い幹が小さな蕾をいっぱいに押し広げて出入りする光景に、支配欲が満たされ唇の端が上がる。
「あ、だめ……奥、ついて」
「んー?」
「あ、あ、お願い、奥、いっぱい」
「ほんっと、俺の半身は淫乱で困る」
「ひっ──!!」
 肌がぶつかる音を響かせ、望み通り奥深くまで無遠慮に抉る。
 頭の中が、気持ちよさと半身への愛しさで埋め尽くされて幸せだ。
「<俺>、<俺>好き、好き、好き、お、<俺>っ」
「そんなに好きか?」
「ん、ん、すき、すき」
「俺のこれが?」
 くるりと腰を回して中を捏ねる。
「ちが、<俺>、<俺>が、<俺>が好き」
「ふうん? じゃあこれは好きじゃないのか」
「あっ!やだ、やだ、やだ、ばか、ばか」
 意地悪を言って、中から引き抜いてしまう。
 腰を高く上げ求めて尻を振る姿がたまらなくてすぐ突き入れそうになるが、少し我慢だ。
「これも好き?」
 硬くぬめるペニスを、尻の谷間で往復する。粘膜に包まれるのとまた違って、これはこれで気持ちいい。
「ふっ、あ、うん、好き、それも、<俺>も、<俺>の全部、が、大好き」
 肩越しに流し目を送り、甘えた口調で愛を告げる<克哉>に、溶けるように頬が緩み思わずふふふと笑いが漏れた。
「んー、今の、ちゃんと顔見て言って欲しかった」
 ちょっと失敗。だったら。
 <克哉>の手を引き身を起こさせて、仰向けになった自分の上に跨がせる。
「はい、どうぞ」
「ばかっ、ばかっ……ばかっ」
 かわいい。もっと言え。
 怒りながらも<克哉>は大きく足を開いて、震える手で克哉のペニスを掴み、ひくつく窄まりに自ら導き腰を落としていく。
「あーっ……」
「んー、いい顔」
 奥まで入ると、<克哉>がびくびくと痙攣する。
 動くのは無理なようだから、<克哉>の腰を持ち上げ下から激しく突いてやる。
「で? なんだって?」
「あっあっあっあっ、あ、好き、<俺>好き」
「うん?」
「<俺>の全部、全部、全部好き」
「うん?」
「うー、っ、なか、入ってる、これも、あっ、<俺>も、全部、ああっ、あ、も、全部っ」
「うん。どうしよう。そんなに愛されて」
 ぼろぼろと涙を零して、克哉の求めることを全て言葉にして伝えてくれた<克哉>に、克哉もつられて泣きそうになってしまう。
 なんて愛しい。愛しい。愛しい。愛しい愛しいお前。
「うー、うー、オレばっかぁ……」
 それはそうだ。<克哉>はきちんと言って伝えたんだから、克哉も伝えなくてはいけないし、伝えたい。
 腰を掴んだ手を外し、<克哉>の両手と絡ませて握って、突き上げながら<克哉>の深い瞳を見つめて告げる。
「俺だって。お前の全部。やらしいとこも、っ、真面目なとこも、脳天気なとこも、口うるさいとこも」
「ふふ……あっ」
「優柔不断で弱いとこも、真っ直ぐで強いとこも……俺のことが、っ、大好きなとこも」
「あっ、あっ……」
「全部、お前の全部、心も、体も何もかも全部、大好きだ」
「<俺>っ、<俺>っ」
「っ、愛してる、<オレ>」
「────っ!!!」
「っ」
 きつく手を握り硬直した<克哉>の屹立の先端から、なんの前触れもなく白く飛沫が上がる。
 克哉の腹に白濁を撒き散らして、<克哉>はしゃくり上げて震える。
 体内で引き絞られる克哉は今夜二度目の絶頂の誘惑を、やはり歯を食いしばって耐える。
 <克哉>の先端からは、飛び散りきらなかった粘液が白く溢れて卑猥だ。
「あ、あ……あ」
「ああ、すごい。濃い」
「っや、ば、か」
 ゆうべだって存分に放出されているのにも関わらず、もう何日も溜め込んでいたかのような粘度の高い白濁にしみじみする。
 腹を汚した幾何かを、指で掬って味わう。
「出たな」
「う……」
「無理矢理じゃないぞ」
「……うー」
「罰ゲームな」
「うー、うー」
 にやにや笑うと、<克哉>は口を尖らせて呻く。
 やっぱり勝ち目なかったじゃないか。
 悔しいのか足をじたばたさせる<克哉>に声を出して笑って、挿入したまま体を起こし向かい合わせで座り込む。
 そっぽを向こうとするのを許さず顎を捕らえて深くくちづけた。
「ということで」
「あっ」
 <克哉>を押し倒して、また正常位に戻す。
「俺もいかせて?」
 甘えたおねだりに、まだ少し拗ねる<克哉>は頬をむにっと摘んで許可してくれた。
 待望の頂きを目指すべく、緩く動かし、徐々にスピードを速めていく。
「愛してる」
「あっ……」
「愛してる、<オレ>、愛してる」
「オレも、あっあ、オレも、あい、してる」
「ん。愛してる」
「ん、んー」
 もう二百回目か。いやそれ以上かというキス。
 気持ちいい。キスも、ペニスも、肌も、全部。
 愛しい。半身の全てが。半身が。その存在が。
 愛しい半身とひとつに繋がって、同じ場所に昇ってこんなに気持ちよくなれるなんて。
 幸せだ。幸せでこわい。
 そういえば、昨日も同じことを思った。一昨日も、その前も。きっと明日も、明後日も、同じことを思う。
 愛してる。幸せ。
 なんて満たされた日々。
「あー、いく」
「あ、あ、オレも、また、いっちゃ……」
「ああ、いいぞ」
「ひあっ!!」
 ぐっと突き上げ、<克哉>のペニスを扱く。さっき溢れた粘液が絡まって、硬い勃起をぐちゃぐちゃに擦ってやる。
「いく、いく、いっ」
「うっ、<オレ>っ……」
「<俺>、<俺>っ!!」
「んんっ──!!」
「っっっ!!」
 ああもう。何がなんだか。
 頭の中も、目の前も真っ白で、何も考えられない。何も見えない。
 ただただ半身の息遣いを感じ、涙に濡れる瞳の愛しい半身を見つめることしか。
 いや、それだけできれば、それができれば、他には何もなくて、何も見えなくていい。
「んー、んー、んー……」
「ん、んー」
「ん、ふあ……」
 絶頂のあとから続く、離れるタイミングが分からない永遠のような長いキスをようやく解き、額を付けて見つめ合う。
「愛してる」
「ん。オレも、愛してる」
 またキスする。何百回目だ。
「暑い」
「うん」
 お互い汗まみれの白濁まみれでひどいことになっている。
 惨状をやっとここで初めて確認して、あーあとふたりで笑う。
「気持ちよかった?」
「ん。すご、かった……」
「俺も」
 またキス。だめだ。全然足りない。
 半身も同じ思いらしい。抱き付いて、濃厚に絡めてきた。
 こんな気持ちのいいキスをされたら。
「あ……」
 まだ抜かれてもいなかったペニスが、<克哉>の中でぴくりと反応する。
 完全に萎えきってはいなかったそれは、一度血が集まるとあっという間に力を戻す。
「このまま……いいか?」
「ん……もう一回、して?」
 ああああああもうもうもうもう。お前は。お前は。
 淫乱で卑猥でかわいくてけしからん半身がたまらなくて、千回目の深いキスをした。


 もう一度どろどろに睦み合って、ふらつきっぷりにお互い笑いながらシャワーを浴び、協力してなんとかシーツを替えてようやく、本当にようやくベッドに入った。
「疲れた……」
 布団を掛ける気力もなく突っ伏す<克哉>に苦笑して、肌掛け布団を掛けてやる。
「よく眠れそうだ」
「もう半分寝てる……」
 まぶたのくっついた<克哉>を抱き寄せ、腕枕で抱き込む。
 額に、まぶたに、頬に、鼻先に、唇にくちづけると、目を閉じたままふにゃっと笑って胸元にすり寄ってくる。
「じゃあ、明日からでいいか?」
「え?」
 唐突に投げられた言葉に、寝ぼけまなこがぱちぱちと見上げる。
 無防備な顔がかわいくて、また唇を啄む。
「色々考えてるが、何がいいか迷うな。一週間もあるから」
 やっとはっと気付く。途端に尖った唇がかわいい。
「んー、どうしよう」
 にやにやしていると、頭突きされた。なんだ。かわいい。
「痛い」
 何度頭突かれてもにやけているから、今度は体を離そうと押してくる。
 そうはさせじと克哉は引き寄せて、<克哉>は押して、こんなやり取りだってにやける燃料にしかならないのに。
「あーもう!バカ!」
 ついに諦めた<克哉>が、抵抗を止めもう一度頭突く。
 ふふ。かわいい。
「おやすみ!」
 ぶんぶんしながらもちゃんと挨拶するのがおかしい。
 かわいい半身の頭を撫で、きゅっと抱きしめる。
「おやすみ、<オレ>。明日から、お楽しみに」
 半笑いで言うと、最後の強烈な頭突きをされた。



 罰ゲーム
2013.02.26/2013.03.17